「ソース」
「はい」
「テメエは」
「シロップ」
「飽きねえのな」
厚切りのベーコンに胡椒とメープルシロップを。半分に割って表面を軽く焼いたマフィンにはバターとメープルシロップを。それからレタスとミニトマトとサニーサイドアップ。白くてまるい皿に乗せられた完璧なブレックファスト。
ルーク・ウィリアムズはナイフでベーコンを切りながら言う。
「君だって肉は好きだろう」
テーブルの向こう側に座っているアーロンはハンバーガーを掴んで答える。彼の前に置かれた皿にはハンバーガーふたつとポテト、それからサラダ。
「オレが好きなのは! ハンバーグやステーキ! テメエが好きなのはシロップに溺れた炭水化物!」
「これ、肉にも合うんだけどな」
ルークはシロップをマフィンに追加する。すでにひたひたのマフィンの表面はシロップを流していく。溢れないうちにベーコンを乗せて、マフィンをつまんで口の中に放り込む。噛むたびにじわりと滲み出てくるシロップの甘さとバターの風味、それからくどすぎないベーコンの脂がたまらない。
それにサラダや卵にはシロップかけてないからな。僕だって節操なしじゃないんだ。ルークはサラダにドレッシングをかける。オリーブオイルとビネガーのシンプルなもの。卵はシロップをかけていないほうのマフィンに乗せる。ルークとしても素材の味を殺すのは避けたい。物事には適切な位置があって、食べ物にシロップをかけたりかけなかったりするのもそのひとつだ。おそらくは。
ルークの復職にはまだもう少しかかるから、今のところ平日も休日もない、ただの朝八時、そこから長針がすこしずれたところ、ふたりはこうやって朝ごはんを食べているのだった。一年前からずっとこんな感じだったようにルークには感じられるけれども、実際のところエリントンのルークの家でアーロンと共同生活を始めたのはつい先日のことだ。
カーテン越しに昇りかけの朝日がふたりの食卓を照らしていた。蛍光灯がなくても構わないくらいだ。そんなものなくたって十分に視界が眩しい。
それはきっと太陽のせいだけじゃない。
さてこのルーク・ウィリアムズですが一昨日アーロンとええと……関係性としては何と呼ぶのが適切なのかいまいちぴんときていないけれども紆余曲折や駆け引きになっていないような駆け引きやその他今更こんなイベント起こるんだみたいなことを経て双方の合意の上でセックスをしました! めでたしめでたし! で終わらないのが生活というもので、ルークとアーロンはこうやって一緒に暮らしている。相棒であるということは何も変わらなくてそこにすこしばかり距離の近い接触が加わっただけだ。といえばいいのかもしれない。
それでも。
たとえばこれまで一緒に寝ていた――これからもそうだろうけれども――ベッド、並んで見る映画、帰ってきたら誰かがいる家、そのもの、今までだってきらきらしていたそれらがより一層ぴかぴかして見えるようになったのは、ほんとうのことだ。
それに加えて。
たとえば皿を渡すときに触れた指先に、スーパーマーケットに買い物に出かけるときにああでもないこうでもないも言い交わす声色のどこかにルークは期待するようになってしまった。期待、というか、胸のあたりが熱くなる感覚というか、これまでも感じていたけれども一層明確にアーロンに触れたいというかたちで現れるようになったそれ。あれはもしかしたら一度きりのことだったのかもしれなくて、それでもよくて、いいけれども、継続的にあったらいいなと思うそれ。
具体的には今めちゃくちゃキスがしたい。アーロンと。
そんなルークをよそにアーロンは食器を洗っている。ルークは食器を拭く。そうと決めたわけではないけれどもそういうことになっていた。皿を洗うのはどこに食器をしまうのか知らなくてもできるからだ。効率の問題。
そういうわけで視界がちょっときらきらして見える。気がしている。アーロンの髪に陽光が反射してぱちぱちとした虹が見える。ばっちりセットされた髪型も好きだけど朝起きたばかりのまだナチュラルなスタイルも好きだ。今なら世界で一番好きな色は赤だって言うだろう。
「……何見てんだ」
「いやあ、僕はしあわせだなあって」
若葉よりも青に寄った緑の瞳がこちらに向けられる。
前言撤回、世界で一番好きな色は緑かもしれない。
いやいやいやアーロンがかわいい、それは知っていたけどこんなに近くでこんなに一緒に過ごしたことなんてなかったから――この数ヶ月だってそうだったけれども目の前の事件に必死な方が大きかったからこうやってまじまじと見てみると言葉にするよりもはやく造作が、その曲線が、そのやわらかさが、その硬質なきらめきが、その爪先まで統御された動作、それらが四六時中ある、あるんだ。
浮かれちゃだめかな? いいと思います! ルークの心のなかではめまぐるしく感情が行き交っている。
「手え止まってんぞ」
そうだった、とルークは積み上がった皿を左に、布巾を右手に持つ。皿を回しながら拭く。水滴がついていないかを確認して棚にしまう。最後にシンクの水滴を拭き取って朝のルーティーンは終了だ。
ふたりはリビングにゆき、すっかり定位置となったソファに陣取る。ひとりには少々大きなそれは、ふたりにはぴったりだ。サイドテーブルには雑誌や新聞が置かれている。
復職するまでの少しの間はこの生活そのものを楽しみたいが、ニュースにはきちんとキャッチアップしておきたい。事件に巻き込まれているさなかはそんな余裕はなかったけれども、エリントンのローカル情報を押さえておくのも警察官にとっては大切なことだ。ルークはテレビを朝のニュース番組に合わせる。
オレンジ色のシャツを着たニュースキャスターが明るくニュース原稿を読み上げている。
『毎日あなたと一緒にいたい! それはちょっと重すぎかな? って思ってるエリントンデイリーニュース! 本日のトップニュース、週間前、エリントン港に巨大なクジラが漂着しました。どうやら出られなくなってしまった様子。今では、港にはクジラを見ようと多くの人々が詰めかけています』
こちらはクジラが海面に姿を現したところです、とナレーションの入る画面では、クジラが勢いよく飛沫を上げて水面を叩いているレインコートを着たり傘をさしたりしている人々がそれを見て歓声を上げていた。ニュースによると、運がよければ潮を吹くのも見られるらしい。
エリントンデイリーニュースはエリントンテレビというローカル局が毎日三回放送している生放送番組で、エリントンでの視聴率は四割を超えるという。
あのニンジャジャン年末特番が視聴率二十五パーセントだったというのだから驚異的な数字だ。
ルークはダイナミックなクジラの映像に見入っていた。こんなに大きな生き物が今近くにいるなんて、ロマンがある。
「すごい迫力だな。今度見に行くか?」
アーロンはどこか呆れた様子でルークに答える。
「これがエリントンのトップニュースか」
「昨日は逃げたうさぎが無事に飼い主のところに戻ったはなしだっただろ」
なんでも、スターサファイアのチョーカーを着けたうさぎが庭からいなくなってしまったが、近隣住民の捜索により見つかったそうだ。チョーカーも無事だ。宝石目当ての泥棒がいてもおかしくないところ、たいそう運がよかったといえる。
「動物園かよここは」
「凶悪事件があるよりいいんじゃないかな」
実際エリントンに重大犯罪がないわけではない。それはここで警察としてはたらいていた自分が一番よく知っている。たまたまここ数日のどかなニュースが続いているだけだろう。国家警察にだって暴かれるべき不正はたくさん残っている。だとしても、こうやって平穏にもほどがあるニュースしかない世の中であってほしいものだ。
さて、貴重な休みをどう過ごそうか、と思っているルークにはひとつの計画があった。パーフェクトに申し分なくすてきな休日のための計画。ルークは雑誌の隙間から紙を取り出してアーロンに見せる。
「アーロン、今日はたくさん食べに行こう!」
「肉か?」
「スイーツ!」
「やっぱりな」
テメエが何か食べようって言ったときに甘いもんじゃねえこたねえんだよな、とアーロンはこぼす。ルークは気にせず続ける。
「これを見ろ! エリントンスイーツコレクション! スタンプラリーになっていて、このリストの中から五つ以上の店を回ると先着順で豪華賞品がもらえるんだ!」
今年はこれ!『お家で作れる! たのしいマカロンタワーセット!』ルークが示した写真には、山盛りのマカロンと組み立てた結果の一メートルはあるマカロンタワー、子供がそれを見て目を丸くしている様子が写っている。
おそらく子供用の景品。
ルークにとっては夢の光景。
アーロンにとっては砂糖の塊。
「テメエひとりで行けばいいだろ」
「それが、この店を見てくれ」
ルークが指差したのはスイーツマップの隅にある星印だった。
「パティスリーウマスギー・モリモリ?」
「そう! ここのパティスリーは味が最高なのは当然、量が多いことで有名で……ひとりぶんでもだいたい三キロくらいのパフェが出てくるんだ。僕も写真でしか見たことないけどほんとうに山みたいなんだとか。フレッシュなイチゴとビターなチョコレートがベストマッチらしくってさ! もったいないからっていうのもあるけど、スタンプは完食しないともらえない」
そこまで甘みの強い店でもないみたいだし、どうだろうか、とルークは言う。アーロンは首を傾げている。もうひと押しすればどうにかなるんじゃないか。
「あと口直しにスパイシーラムチョップが出てくることで評判」
甘いものばかりでは食べるのにも飽きてしまうだろうと、店主の気遣いでラムチョップが出されるらしい。気遣いなのか駄目押しなのかは判然としないが、意外なことに、肉通にも評判がいいらしい。
まあたいていのひとはそこまで行き着かないらしいんだけどさ、君にも悪くないんじゃないかな。ルークは腕を組む。
アーロンはあごに指を当て、しばし考えてから答える。
「ハンバーグ五キロ」
「頼んだぞ、アーロン!」
スイーツを食べた上で肉も食べるなんて一体どんな胃袋をしているんだ、お腹は大丈夫なのかと常日頃から思っているが、きっとブラックホールでも内蔵しているんだろう。
ドラマの配信を見たりして、のんびりと早めのランチをとった、十二時過ぎ。さて出かけようと身支度を整え、コートを羽織ったところにチャイムが鳴る。ルークが外を見ると、ストライプの制服を着た宅配業者の姿があった。おそらく、シロネコ宅急便だろう。僕が出るよ、とルークは玄関に向かった。
ネット通販はたまに利用するけれども、なにか注文しただろうか。覚えはないが、ごたごたが続いていたから忘れていただけかもしれない。
ドアを開ける。宅配業者がルーク・ウィリアムズ様で間違いないでしょうか、と言うので頷いて荷物を受け取った。
「サインは結構です」
ぶっきらぼうにそう告げて、業者は去っていった。
両手で抱えられる程度の大きさの段ボール箱は軽い。リビングに戻り、このサイズの箱は過剰包装なのではないか、と思いながらルークはカッターナイフで箱を開けた。箱の底にビニールで留められていたのは小さく平たい青色の箱。蓋を開けると、そこには思いがけないものが入っていた。
「アーロン、これ君が買ったんじゃ……ないよな」
「んなわけねえだろ」
「僕は買った記憶ないんだけど」
「あったら驚きだわ」
箱に入っていたのは銀色の手錠だった。十五センチ程度の鎖でふたつの輪がつながれている。触ってみると冷たい、金属製だ。
「うーん、誤配達かな」
「趣味の品にしてはちゃんとしてんな」
「だから僕の趣味じゃないって」
ぱっと見たところ、警察で使っているものと同じタイプのようだが、こんなものが通販で買えるのだろうか? とにかく、誤配達だろうから発送元に戻さなければ、とルークはダンボールに荷札を探すが、送り主の住所は記されていなかった。
住所があるべき場所には、ただ『Dear My Heroes』とだけ、印字されている。
わたしの愛しいヒーローたちへ。
どういうことだ?
「もう一度一応聞くけど君が送ったんじゃないよな?」
「殴られてえのか?」
「それはちょっとな」
ただ、ひとつひっかかるのは――
「おいドギー、これ鍵がついてねえぞ」
アーロンも同じところに思い当たっていたようだ。
そう、この手錠が普通のものとは異なる点。
ルークは手錠の入っていた箱をもう一度検分するが、鍵のようなものは見当たらなかった。ついでに手錠の方にも鍵穴がない。これが市販のものだったとしても、鍵が付属していない手錠はありえない。鍵がかからないならばその用をなさないし、かかるのならば外すことが不可能となってしまう。
アーロンが段ボール箱をひっくり返して振ると、一枚の紙と手のひらサイズの小さな通信端末が落ちてきた。手錠の入っていた箱の下に隠されていたのだろうか。なになに、『その手錠を片手ずつ嵌めろ』……?
言っていることはわかるが、どういう意図があるんだ、と思っていたら、
『やあ、ヒーローたち』
無機質な声が小さな通信端末から聞こえてきた。ボイスチェンジャーを掛けているのだろう。空気が凍る。どう考えても普通の状況ではない。荷物の主だろうか。
「は? 誰だテメエ」
『その前に紙に書いてある指示に従ってくれないかな』
「この――手錠を嵌めろ、っていう?」
『従ってくれないと、こうなるよ』
そう遠くはない場所から軽い爆発音とばらばらとものが落ちる音。急いでルークは窓から外を見る。一番近くの街灯が煙を上げている。ライトが地面に落ちてガラスが散乱していた。偶然にしてはできすぎている。この声の主が何かをしたのは確実だろう。
ルークはアーロンと視線を交わす。一気に緊急事態モードになる。この状況を打開するにはまずこの紙の指示に従うしかない。どこから見ているのかはわからないが、この声の主は現在ふたりを監視しているようだった。
ルークは机に置いてあった手錠を手にとった。右手と左手、どちらに嵌めるべきだろうか。今後どうなるかわからない、戦闘が起こる可能性がある、戦力として有用なのは、そうなると――と思っていたらアーロンがルークから手錠を取り上げて、ルークの左手に手錠をかけた。カチリと小気味いい音がする。それから自分の右手によどみなく嵌める。
「テメエの右は空けとけ、オレはどっちでも大差ない」
「――わかった」
右手、つまり、銃を持つ手。
辺りを見回し、ルークは右手を挙げる。それから机の上にタブレットが置いてあることを確認する。充電はしっかりしてあったはずだから問題ないだろう。
「君、見えているんだろう。指示に従った。誰だ。何をしようとしてる」
ルークがはっきりと言うと、通信端末は声を返した。
『ぼくらは――名乗るならメーカーズ、かな』
メーカーズと名乗るそれは、淡々と告げる。まるで自動音声の応答のように。それが機械でないことを示すのは、文頭の笑い声くらいだった。
『ぼくらはエリントンのどこかに爆弾を仕掛けた』
「何だって?」
ルークはカバンからタブレットを取り出そうとする。爆弾だって? 今のところ民間人である自分たちが独力で対応するべき事件ではないの明らかである。警察に所属していたとしても、爆発物処理班の救援を養成する必要があるのは確実だ。
『他の人に、ましてや警察に連絡しようとする動きがあれば、すぐに爆発させる』
カバンの中でタブレットのスリープモードだけ解除して、ルークは敵意がないことを示すため再び右手を挙げる。
「目的は何だ」
『目的? そんなものはないよ。ただ、きみたちを試したい。きみたちがぼくらの試練を乗り越えられるヒーローなのかを。あるいは、犠牲となってモニュメントに刻まれるヒーローなのかを。だから、爆発させるのはどこだってよかったんだ』
声はああでも、と続ける。
『何も手掛かりがないと張り合いがないよね。ヒントは――このエリントンで毎日誰もと一緒にいるのに、この夕方は一緒にいられない、誰かのところ』
謎めいた言葉、ルークはそれらから類推される事項を想像しようとする、誰もと一緒にいる、でも今日の夕方はそうではない――
だめだ、これだけじゃ何も確証が得られない。
ちなみに、とその声は言う。
『その手錠には小型爆弾が仕込んであるから』
外そうとしたらボカン、だ。あの街灯みたいに。
「いちいち面倒なヤツだな」
アーロンが舌打ちをする。
『日没までに爆弾を見つけられたらきみたちの勝ち。見つけられなかったらぼくらの勝ち』
せいぜい足掻けよ、ヒーロー。
通信が切られる。アーロンは端末のスイッチを推してみたが電源がつく気配はない。遠隔操作なのだろう。
ルークはひとつ息をする。今朝とは違う理由でクリアになっていく視界。
どうやら、スイーツコレクション巡りは後日になりそうだ。
「逆探知しようとしたけど、この時間じゃ完全には辿りきれなかったみたいだな。でも範囲は絞れた、この円の中だ」
ルークはタブレットを開き、アプリでエリントンの地図を表示する。
「って、けっこう近くじゃないか」
地図上には青い円が表示されており、海沿いから港湾地帯、近くの商店街など、内側にはいくつかの建物がある。今ルークたちが住んでいる住宅地から多少外れているが、ぎりぎり歩いて行けるくらいの距離だ。
ルークのタブレットにはシキの開発したワンクリック高性能逆探知アプリが入っている。なんでも周りで不審な通信があれば自動で逆探知してログを取っているのだとか。いつか役に立つときがあれば、と彼は言っていたが、まさかこんなに早く使う羽目になるとは思っていなかった。
「最後の『ヒント』で『このエリントンに』って言ってたしな」
「この範囲にあるのは――ドラッグストア、スーパーマーケット、テレビ局、海岸沿いのコンテナ群か」
ルークは地図上のアイコンをひとつひとつ確認する。
「もしあの犯人がエリントンに住んでいるんなら、ドラッグストアは爆弾の材料を集める格好の場所だろうな」
「ちょっと離れているけど、工務店も近くにあるぞ。爆弾作りにはもってこいの場所だ。犯人が訪れる可能性も高いだろう」
タスクリストに、効率良く回れる道順も考慮して、ドラッグストア、工務店、スーパーマーケット、海岸、テレビ局を登録する。
そういえば、とルークは言う。
「あの『ヒント』はどういう意味だったんだろう」
「『このエリントンで毎日誰もと一緒にいるのに、この夕方は一緒にいられない、誰かのところ』とか抜かしてやがったな」
「なぞなぞみたいだな……エリントンのどこにでもあるけど、夕方にはなくなるものっていうことだろうか」
「ここで考え込んでも仕方ねえだろ、次行くぞ」
リストに、『ヒントについては要検討』と追加。
「あとは爆弾犯の居場所か」
「あの様子からすると、自分の犯行を見せびらかしたいんだろうよ。わざわざこんなおもちゃまでよこしやがって」
アーロンは右の手首を振る。ルークの右手もそちらに引っ張られる。
普通に爆破事件を起こすだけなら、手錠なんて送りつけてこないはずだ。
アーロンの指摘通り、一般に爆破事件を起こす人間は自己顕示欲が強いとされている。爆弾による被害は大きく、見た目にも派手で、ニュースになりやすい。
ただ単に多数の人間を殺傷するだけなら他の手段がいくらでもある。他人を苦しめたいのならばもっとじわじわと危害を加える方法もある。
爆弾、しかもこうやって他人に脅迫じみた真似までして知らせてくるということは、遠くからカメラ等で監視するのみならず、爆破現場を実際に安全な場所から眺めている可能性は高い。
つまり、この辺りの市民に聞き込みを行い、怪しい行動を取っている者がいなかったかを尋ねれば、どこに爆弾が仕掛けられているかに近付けるのではないだろうか。もしくは、犯人の居場所を突き止めて解除を迫る方法もある。
「ひとつ気にかかるのは、犯人たちは僕たちのことを知っているみたいだったってところかな」
ほら、送り主が『Dear My Heroes』だし。とルークは続ける。
「テメエを『ヒーロー』なんてけったいな名前で呼ぶ爆弾犯に覚えがあんのかよ」
ルークは少しの間考えてから答える。ヒーローになりたい! とはこれまでの人生でもけっこう口にしてきたけれども、爆弾犯と出会った覚えは……
「うーん、それはないな……」
「複数形だしな。ならとりあえずそこは保留でいいだろ」
「よし、さっそく調査開始だ!」
「やること変わんねえのな」
ふたりにとっては慣れた手順だ。手錠さえなければ。
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