ルークとアーロンが同じベッドで寝ていることは与えられた条件からして当然の帰結なのだが、朝起きたらルークの腕のなかにアーロンが収まっていることは当然ではない。当然の帰結の方から行くと、まずアーロンがしばらくの間ルークの家に滞在することになり、ルークの家にはルークの寝室と長いこと使っていない寝室があるけれども、長いこと使っていない方を客人に提供するのはどうかとかそれから心情的な問題があるとかなんだかとルークが言い、ならソファで寝るとか、屋上がないから妥協案だとかアーロンが言い、ルークがそれを許すはずもなく、当然の帰結として、ルークのベッドにふたりが眠ることとなった。
へたれたクッションとふかふかのビーストくん人形には床の上にいてもらおう。
朝日にはカーテン越しにあざやかに彼らのことを起こしてもらおう。
アーロンがこの状況に気がつくまであと数秒。
ルークが目を覚ますまであと数分。
アーロンがこの状況を知ったら当然の帰結として跳ね起きる――なんてことはなくって、案外、そのままだったりするのだ。
ここでは当然じゃないことばかり起こる。ふたりがここにいることが当然かどうかについては各自考えてほしい。
最初に述べた当然じゃない方のはなしだが――まずルークについて。
なんだかあたたかいな、というのが覚醒しつつある意識のなかに降った最初の言葉、あたたかい毛布は好きだ、でもこれは毛布のあたたかさじゃない、毛布っていうのは上にあるもので横にあるものじゃない、というか体の正面が全面的にあたたかい。
なにかに抱きついているんだな、とわかったのがその次。
クッションは下に置いたよな、と思い出したのがその次。
抱きついているものはひとつしかないなと思ったのが今。
「お、おはよう?」
すったもんだあって一緒のベッドで寝ようと言ったのは昨日。ちょっと狭いけれどもそんなに違和感ないなの「違」くらいのところで眠りに落ちたのが昨日。
「なんで疑問形なんだよ」
「いやあ、僕もまさかこうなっているとは思わなくって」
こうっていうのは目が覚めたらアーロンに抱きついている状態であったことを指す。
それにしても、とルークは言う。
「こうしていると、君ってなんだか、でっかい抱き枕みたいだ」
それからルークは衝撃に身構えた。だいたい暴力的なツッコミがやってくるパターンだ。
しかしそうはならなかった。ただ唸り声みたいなのが聞こえた。
「いやあ元気のいい君のことだから肘鉄とかそういうのが飛んでくるのかと」
「期待してたのか?」
「なければいいです」
「朝だからな」
眠たいんだろうか、そりゃそうだ、とルークは思う。今日は休日だ。ちょっとくらいまどろんでいたっていいだろう。時計を見る。八時を過ぎたところだ。今なら許されるかなと思ってアーロンの頭をわしゃわしゃしたらさすがに手を払われた。
当然じゃない方のはなしだが――アーロンについて。
さてアーロンのようなひとが誰かに抱きつかれて気が付かないわけがないのだ。その体温を振り払おうとすればいつだってできるはずなのであった。警戒心がきちんとはたらいていればそうなるはずだった。
なのに目を覚まさなかった。
つまり。
ひとがこんなに近くにいて、近くに眠っていて、こんなにちゃんと眠れるのだ!だから許した、許してやった、ルークがそのまま抱きついているのを、抱き枕だなんて言ったことを、なんなら明日だってそうしたっていいと、その次だってそうしたっていいと、口には出さないが。犬の体温は、嫌いじゃない。
2021-05-06
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