すべての少女は本を持ち、すべての少女は学舎に所属する。 その中にひとり、本を持たないものがいる。 彼女のことを『彼女』と称する。 自らの持つ本を冠した少女たちによる、世界の終わりの物語/4.8万字
Chapter 1
わたしは見た。彼女を。それは水の中のこと、身長よりも少し深いプールの底に、もう少しで爪先が届こうとしたときだ。わたしは沈んでいく。彼女は水面へ向かう。彼女の脚が水底を蹴ったので当然のこと。彼女と目が合う。少なくとも、わたしはそう思う。そんな…
Chapter 2
新しいものは、本の他に、何かを伴って学舎の中央広場に現れるのが決まりだ。学舎を上から見れば、大きな二つの円形から成り立っていることがわかるだろう。その円は五分の一ほどの割合で交差しており、長方形の壁で囲われている。中央広場は、片方の円の中心…
Chapter 3
わたし――〈はてしない物語〉は、あかがね色の表紙を開く。表紙の裏と、次のページには図案が描かれている。中表紙の次に、目次がある。目次を過ぎると、赤と緑の文字で語られる物語がある。初めて読む物語だ。当然のことではあるが。まず「少年」が登場する…
Chapter 4
嵐が来た。そしてみなが消えていく。学舎の部屋は無限にあり、学舎のものも無限にあるはずだった。無限足す一は無限だし、引く一は無限なので、なにもいなくなることなどあるはずがなかった。なのに今、学舎のものは限りなくゼロへと近づきつつある。学舎に増…
Chapter 5
壁はない。彼女は見えない。それはすべてが回収された後の世界のこと。〈レ・ミゼラブル〉は目を覚ます。目を開いたところで、見えるのは乳白色だけで、何も入力はされない。奇しくも、それは今の世界のありようと同じだったので、目が見えても見えなくても変…