だけれども今は彼らの――ルークとアーロンの家路を追うこととしよう。簡単な事情聴取を受けた後、ふたりは国家警察からルークの家へと帰ることになった。今日はもう疲れているだろうから詳細な聴取は後日、ということにしてくれたのだ。
時刻は二十一時を過ぎている。ハンバーグを作るのはまた今度にして、今夜は惣菜を買って帰ろう、ということになった。警察でも軽食は出たけれども、半日街を駆け回ってからハンバーグを作れるほど元気じゃない。
行きには煌々と光っていた太陽はとっくのとうに沈み、代わりに月が昇りかけている。
満月だ。
白い月光と青白い街灯が彼らの歩みを照らしていた。
「今日は散々だったけど、君が僕をみんなに相棒って紹介してくれるなんてうれしかったなあ」
街灯の下でルークはくるりと回ってみせる。よほど上機嫌なのだとアーロンは見る。
行きにはあんなに歩きにくかった道がこんなにも歩きやすい、それはきっとあの厄介な手錠がなくなったからだけじゃないのではないかとルークは感じている。
「相棒だし、もちろん友達だし、それから」
「恋人、かもしれねえな」
わあ、と気の抜けた声を出すルークの方を見ないようにアーロンはそそくさと歩く。ルークは走って追いかけていって、アーロンのジャケットの裾を掴む。
「君からそんな言葉を聞くとは思ってなかったな」
イマジナリー尻尾がいつにもましてわさわさと振られているのを見る。
「でも、どれだっていいよ、こうやって一緒に、無事に、いられるわけで――それだけで僕は最高の気分になれる」
こうやって、とルークは無意味にジャンプしてみせる。着地したルークの頭をアーロンは撫でてやった。一日中走り回ったのだ、べたついているし汗の匂いがする、それすらもよいと感じられるような夕景、一日の終わり。
「そうだアーロン、あのときの――」
ルークのくちびるにはつい数時間前のあの感触がまだ残っていた、今までのどれとも違うキスのこと。
そんなルークにアーロンは非情にも告げる。
「ステイだルーク、家までな」
「そんな」
ほら! いつものアーロンだ! めちゃくちゃにこにこしている、ネコ科の笑み、でも今は捕食者と言うよりも猫じゃらしがあって飛び跳ねている大きな猫のような。
「あと十五分が待てねえのか?」
「待てるさ! いつまでだって」
「いつまでも?」
悪戯っぽく笑うアーロンにルークは、
「いやいつまでもは言いすぎました、今日中がいいです。なんなら家帰ってすぐがいいです」
取り繕うもなにもないただの本音、アーロンの格好のおもちゃ。
「素直なワンコだな」
「僕が素直じゃなかったことなんかあるか」
「威張ることじゃねえだろ」
「僕からしてみれば君も相当素直だぞ」
さっきとか! と言うとアーロンにどつかれた――痛くない! 今日はどちらかというと蹴られていたほうが多いからちょっと新鮮だ。
「こういうところ!」
アーロンは大きな口を開けて笑う。ルークも釣られて笑っている。なにかがおかしいというよりは、こんな事件があったあとでもあまりにいつもどおりのお互いに対しての安堵に近い。
アーロンの視界が一瞬白に包まれる、眩しくて腕て目を覆う、向こう側から車がやってきていたのだ。
その一瞬の後、アーロンに見えたのはどこか神妙な面持ちのルークであった。
「キスは家までお預けにしても――君と手をつないでもいいだろうか」
「は? 今日散々つないでたじゃねえか」
「そうじゃなくって、仕方なくでも、何かを隠すためでもなくて――僕は、君と、手をつないで家に帰りたいんだ」
「クセエんだよ、テメエは、いちいち、でも」
ルークはアーロンに右手を差し出す。
アーロンはその手を取る。
幾度となくつないだ手はまるで最初からそうであったかのようにしっくりときた。ふたりはそのまま並んで歩いた。この時間となるとあたりにはもう人影はない。
それから、とルークは目を輝かせて言う。
「明日こそエリントンスイーツコレクションを巡ろうな!」
「ほんっとぶれねえなドギー」
今日の小さな傷跡はいつか消えるだろう。つないだ手はいつか離すことになるのだろう。それでも、今は、こうやって、ふたりで、手をつないで、歩いていられる。家まではあとすこし。
2021-07-03
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