それはこれからおおよそ10億年後の話。太陽系第三惑星、地球。太陽が白色矮星となる前に、活動の活発化により、地球の地表は生命の住める状態ではなくなった。その前に、知的生命体は地球の生命を連れて遠く彼方に旅立ったのだが、それらが新天地に辿り着くまでにはさまざまな冒険があった。だがそれはまた別の話。別の機会にするとしよう。
さて地球である。生命のもはやない土地に、さまざまな建築物のみが残された土地に、降り立つ巨大な人影があった。べらぼうな巨人、タローマンである。タローマンは廃墟となったビル街を歩きながら、たまにその中を覗き込んだりしていた。
シュールレアリズム星人たちはしばしば地球を訪れたものだが、タローマンは特に地球のでたらめさを好んでいた。シュールレアリズム星人たちにとって、地球は近い場所であったという理由もある。地球上の生命体には遠いのだが。タローマンは特段地球を好んでいるわけではなかった。ただそのうちにときたま展開されることのある交流は好んでいたと言っても過言ではないだろう。
それゆえ、タローマンはなにもかもが終わった地球に再び降り立った。素朴に、無邪気に、幼児のような眼をみはらなければ、世界はふくらまない。そう、岡本太郎も言っていた。タローマンはその目で、終わりゆく世界を見定めたいと思っていた――のかもしれない。すべては憶測にすぎない。
しかしながら、やはりと言うべきか、タローマンの遊び場としての地球は、もはや存在しなかった。釣りをしようにも魚はいない。奇獣たちもその寿命を終えているものが多かったし、わざわざ地球に現れるものもいなかった。
だからといって、タローマンが何もせずにいることはない。タローマンは電柱を引き抜いて、ビルを叩いた。10億年前とは違い、そう簡単に壊れることのない素材で作られたビルは、鈍い音を鳴らした。何回か試していると、いい音がなる場所を見つけた。タローマンはビルを駆け回り、いつのまにか両手に電柱を持ち、打楽器のように叩いていった。時には鈍く、時には鋭く、窓が割れる音、いくつもの音が重なり合う。今や街はタローマンの楽器であった。看板は踏み潰され、信号は振り回され、車は放り投げられた。
それはタローマン以外誰も聴くことのない音楽であった。タローマンが何を思ってそうしているのか、我々にはわからない。推測することすらできない。
タローマンはビルを叩いた。地面を鳴らした。大気を裂いた。工場の部品をばらまいた。祝祭のように。
タローマンにとって、誰かが見ているかどうか、というのはまったく関係がなかった。10億年前も、今も、それは変わらない。他人の目を気にして行動を変えるようなことを、タローマンは自らに許さなかった。だから今、まるで無秩序に見える行動を、観測するもののいない地上で行うことに、なんのためらいもなかった。
タローマンは、叩く場所によって音が変わるビル群やその周辺の構造物で遊んでいた。その音は次第に収束していき、ある一定のリズムをとるようになってきた。
リズムが発生したことで、タローマンはより楽しいと感じた。
少なくとも、シュールレアリズム星の住人が、今のタローマンを見たら、微笑んでいるように見えただろう。
タローマンが走るうち、タローホーンと大気の干渉か、それともひとには観測できないなんらかの理由によるものか、ひとの歌うような音も重なるようになった。
もしも、10億年前の人類がこの場にいて、このタローマンを目撃したならば、その音は、サカナクションというバンドの「怪獣」に聴こえたかもしれない。
2025-10-01
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます