ぼくらはまだ手をつなげない

雪は止んでいた。頭上には青空が広がっている。気温は低いが外套が必要なほどではないだろう。
スコットは右のこめかみに手を添える。マスクがX字に光り、赤い光線オプティックブラストを放った。軌道は不安定に揺れ、最終的に雪面に落下する。
横に立っていたエリックは冷静に言い放った。
「集中しろ」
「わかってる」
ふたりは不安定になった能力を元に戻すためにこうやって訓練を行っていた。スコットのブラストの軌道はずれるし、エリックの磁力はうまく対象に届かない。
「もう一時間だ」
「泣き言か?」
「まだやれる」
そうでなくては、とエリックは答える。

しばらくブラストを撃っていたが、どうもうまくいかない。威力が少なかったり、軌道がずれたり、または暴発に近い形となることもある。その際は、エリックが木材を操って止めた。木材の中にある微量の鉄イオンを制御しているのだという。たまにうまくいかないこともあるが。
それでもいい。それでも周りに迷惑をかけないためにこうやって雪原にいる。
生徒たちには知られないように。

途中でエリックの能力の調整の方にも移ったが、功を奏しなかった。スコットはデンジャールームで仲間たちと特訓をしていた頃を思い出したが、あのときは、まさかエリックとこんな訓練をすることになるとは思いもしなかった。
スコットの番に戻ろうとした時、そうだ、とエリックは言う。
「ひとつまじないをかけてやろう」
「昔ユートピアで言ってたような?」
エリックはかつて、ユートピアに人間が侵攻してくる前夜、スコットに冷静になるための方法を教えたことがある。目で見えるものと、実際のものの大きさを比べてみて、サイズが違ったら、冷静ではない、ということらしい。
「まあ、似たようなものだが」
スコットは頷いた。
「お前は海辺に立っている」
それはゆるやかな重力を持つ声、誰もを引きつけるだろう、しかしどこかでひとを拒絶するであろう、高貴さを持つ声。
「海を想像しろ、凪いだ海を、遠くに島がある、それを見ろ」
スコットは幼い頃に見た海を想起する。家族と一緒に遊びに行った海辺、きらきらと輝く砂浜、島があったかはわからないが、今なら見える、かもしれない。
「島を撃て」
そう、そして、それは。
「ああ」
教授チャールズの声とは、違う。

結果は同じだった。途中までは直線を描いた軌道は、衝突する直前で大きくぶれた。
「今回も失敗か」
「お前は私を疑っているのか?」
「そんなわけないだろ」
もちろんスコットはエリックに感謝していた。壊れてしまった能力を戻せるのは彼しかいないだろう。
「私は全力を尽くしている。お前を救うためにな」
「それは、まあ、ありがたいことだ」
全力、とは大仰なことだ、と思っているスコットに、なぜならこれは罰などではないからだ、と、エリックは言う。
冷たい太陽の光が彼らを照らしている、雪が光を反射するが、スコットには眩しくはない。目を閉じているからではなく、開いていても常に外界と遮るフィルターがあるからだ。その能力ゆえに。
エリックは腕を組む。
「罰してなどやるものか。煉獄でせいぜい足掻くがいい。地獄になど突き落としてやるものか。自らの罪を見据える前に。お前のやったことが何か、自分でもわかっているだろう?」
永遠の夕焼け、その中でスコットはチャールズを殺したのであった。
「ああ、エリック、だからー
「完全に『戻って』から考えろ。私たちは世界に向けられた銃口だ。引き金は我らの民のためだけに引く。そうでなければならない」
スコットはエリック・レーンシャーの、磁界王マグニートーの戦いを思った、敵対してきた期間の方が長いけれども、彼はずっと、ミュータントのために戦ってきた。それは一貫している。
そして、今、スコットも、彼と同じ側に立っている。
「みんなをーミュータントの皆を、救うために」
「そうだ」
エリックはスコットの左腕に手を添えた。スコットはブラストを木に向かって放つ。湿気の少ない大気を焼きながら、木々に向かって飛んでゆく。まっすぐに進んだそれが、幹をなぎ倒す。
「あと十回」
スコットは呟く。エリックの手には気付かなかった。遠くで木々の葉から雪が落ちる。

2022-05-30

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