「正直なところ、もっとこわいひとだと、思ってた」
「いつのはなしだ」
「子供のころ」
「それはそうだ」
我々は敵だったのだから、と、エリックは何の衒いもなく言った。スコットはカップに紅茶を注ぎながらそれを聞いていた。ダージリン。ジーンがこの茶葉なら間違いないと言っていたからこれでいいだろう。
サマーハウスの午後はゆったりとしている。ティータイムにエリックがやってきたから、スコットは彼を歓迎した。平和な時間を過ごせるというのは、彼らにとってもはや普通のこととなっていた。
「敵だったから、だけじゃなくって、コミックのあなたはこわかったんだよ」
「コミック?」
エリックは怪訝な顔をした。
「X-menに入る前――ヒーローになる前、よくヒーローのコミックを読んでいたから、当然、ぼくらのコミックがどうなっているんだろうって、読んでみていたんだ」
「意外だな」
意外かな、とスコットは答える。憧れのヒーローの、憧れのおはなしを読むことに、まったく疑問はなかった。
フルカラーのヒーローたち。あんな風に、世界を変えられたらと、何の力もないころ、思っていた。結局、自分のできることからやるしかないと、戦術を学んだりしてみて、そして――スコットはミュータントとしての己に気が付かされることになるのだった。
エリックは皮肉げに言う。
「きっと私は悪しざまに描かれていたんだろう」
「というか、自分すらもあんな性格じゃないなって」
「どんなだ」
「生真面目でしっかりしているけどたまにすごく落ち込む冷静なリーダー」
スコットがはじめてX-menのコミックを読んだときは驚いたものだ。まず自分があのころ読んでいたヒーローたちと同じように活躍していることに。それからまったく自分じゃないみたいな自分のことに。
今となっては商業上の都合とか、そういうこともわかる。実際に会ってみたら性格が違うことや、逆にもっといいひとだったってことも、あったし。
「今もそうじゃないか」
「どうかな」
エリックには自分がそう見えているのだろうか。スコットはこれまで彼と過ごしてきた時間のことを考えてみたが、いろいろありすぎてわからない。
敵だった。敵だか味方だかわからないこともあった。今は味方だ。
ただひとつだけわかることがある。
彼が味方でいてくれることほど頼もしいことはない。
「茶が冷めるぞ」
たしかにそうだ。せっかくジーンが選んでくれたおいしい紅茶なのだ。スコットはティーカップを口につける。華やかな香りがして、なめらかだ。
テーブルの中央に置いてあるのはデーツで、これもジーンがおいしいと言っていたものだ。一口食べると濃厚な甘さが口の中に広がった。
かつて敵同士だった彼らが菓子をつまみながら談笑することがあるだなんて、青年のころのスコットはまったく想像すらしなかった。
「今、コミックブックの中のぼくらは、どうなっているんだろうな」
「何が描かれていようとも、我々がここにいることは、ここで暮らしていることは、事実だろう?」
エリックは笑った。おそらく皮肉ではなく。
スコットはそれを好ましいと思った。平時は穏やかである彼の、時に苛烈である彼の、その中間の温もりを見たような気がして。
クラコアと呼ばれる楽園、生きた島と永遠の花と共に生きるミュータントたちのことを、人間たちが知ることはない。当然、これから先の彼らの会話も、知られることがない。
2021-03-11
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