edible paper

僕の名前はバリー・アレン、地上最速の男だ。
普段は警察の科学捜査官として働きながら、スターラボの仲間たちと密かに悪者を退治している。
それはそうとして今は困惑している。
ある朝、僕がスターラボの管制室に入ったら、そこにはウェルズ博士がいた。モニターを眺めながら何かを食べているようだ。
朝食だろうか、博士はそんなに食べないと聞いていたが、と思っていたら、予想外のことが起きてしまった。
「博士、それはいったい」
「バリーか。おはよう。先週ジャーナルに発表されたばかりの素粒子物理学の論文だ」
「いやそうじゃなくって」
「味も悪くないな」
そう言ってウェルズ博士は手元の紙をちぎって口の中に放り込み、コーヒーで流し込む。
「ええと、論文って、食べるものなんですか?」
読むんじゃなくて?と聞くと、そうだが、と博士は言う。
「冗談だ。内容はすでに把握している」
そういう問題なのだろうか。僕はとりあえず見なかったことにしてワークショップに向かった。

「ところで、シスコ、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
ワークショップにいたシスコはジッターズのコーヒーを飲みながら答える。今日のTシャツには日本語で何かが書いてあるようだが読むことはできない。
「論文って、素粒子物理の分野では食べ物として扱われてたりする?」
「あ、バリーも見たんだ、博士のあれ」
「知ってたの!?」
「ここでは有名だよ。作業しながらぱりぱり食べてる。ラボに入ったときからそうだった」
「ろ、論文を」
「そのときはチェスの本だった。定石は覚えたからもういいやって。文章が印刷してある紙ならなんだっていいらしい」
「実はそんなこと自伝に書いてあったりした?」
自伝には書いてないんじゃないかな、インタビュワーだってわざわざ今日は何を食べましたか?とか聞かないし、とシスコは言う。
「おれも最初はびっくりしたんだけどさ、口寂しいからって言われたらなるほどなと思ったし、なんか内容は電子版で読んでるからいいんじゃないかなって」
「いいんだ……
僕も科学捜査官になるために化学や生物については勉強してきたけれども、ウェルズ博士やシスコのような理論物理の方向のひとたちだとそういうことがあるのかもしれない。
いやないだろ。
「ちなみに論文はまったくおいしくないからビッグベリーバーガーで普通のハンバーガーを食べたほうがいい」
「シスコも論文食べたことがあるってこと?」
「ノーコメント」

僕の名前はバリー・アレン。地上最速の男だ。
試しにコピー用紙をかじってみたがどこからどう考えても紙とインクの味しかしなかった。おいしいおいしくない以前に食べ物ではない。
地上最速だとしても紙を食べるための力なんてスピードフォースは与えてくれなかったようだ。この街を守るには支障がないからいいけど――僕はこのラボでやっていけるのだろうか?

2022-05-30

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