et tu?Harry Wells

そう、それはハリー・ウェルズがアース2からやってきてから一ヶ月ほど経った頃だった。ランチを買いに行く余裕もないなということで、おれはデリバリーでチーズバーガーセットとチキンバーガーセットを注文した。ハンバーガーは片手で食べられるから便利だというのは多くの研究者の間で共有されている知見だろう。ハリー曰くアース2にもビッグベリーバーガーがあるらしいし、けっこう食べていたのだとかいう。慣れてるならそれのほうがいいかなと思った、というのは少しある。
異なるアースにあるものは、同じ名前だからといって同じとは限らない。
その時のおれは、その原則をまだあまり理解していなかった。

30分もしないうちに、優秀なデリバリースタッフがボックスに入ったセットをワークショップまで持ってきてくれた。多少ドリンクがこぼれているが許容範囲だろう。
「あんたはチーズバーガーでよかったよな」
「ああ、赤いラッピングか、同じでよかった」
おれはチキンバーガーの方、開封してかぶりつくといつもの味。安心感のあるジャンクさだ。
ハリーもモニタを見ながらマウスを操作しつつチーズバーガーを食べている。まったく彼の切り替えの速さはすごいなと思う。
こっちも数値を変えてみてシュミレーションの結果を見よう、とか思っていたら、ハリーが珍しく驚きを交えて呟くのを聞く。
「どういうことだ?」
驚いたのはこっちの方だった。
「何やってんの!?」
「まさか、これは、食えないのか」
ハリーはハンバーガーのラッピングペーパーを噛みちぎりながら言う。そうだねハンバーガーは食べるものだけどラッピングは食べないよ。防水のためかラミネートもされているし。
「普通食べないって」
「どういうことだ?コピー用紙みたいな味じゃないか」
「紙だからだよ」
「噛みごたえが悪いと思ったが、まさかアース1にはエコロジーの意識がないとはな」
「いやエコロジーじゃなくて常識の問題じゃないかな」
少なくともおれの知る常識にはエコのために紙を食べようとは書いていない。
「常識だろう、ハンバーガーはソースが残るからラッピングペーパーに包んで食べられた方が効率がいいし、無駄もない」
「それは一理あるし、今後のビッグベリーバーガーの経営戦略には加えたほうがいいかもしれないけど、現状、この世界ではその習慣はない」
「それは驚きだな」
ハリーはいかにも冷静という感じで言う。ドリンクを飲む。
「えっとそれ外でやってないよな」
「何を」
「ラッピングペーパー食べるの」
「やってないが」
「やめといたほうがいいよ、アース1にはエコロジーの意識がないから」
「無論、食べられないなら食べない」
幸いなことにハリー・ウェルズには常識があった。おれたちは作業に戻る。いやまあちょっと驚いたけどこういうことも……あるしなということで。

「あのちなみになんだけどさ、ハリーって論文食べるタイプ?」
……論文を?食べる?なぜ」
「アース1とアース2の間に高い壁があるのはわかった」
異なるアースにあるものは、同じ名前だからといって同じだとは限らない。
どこのアースのハリソン・ウェルズも論文を食べるだなんてことはないようだ。
とりあえず今度はバリーが驚かずにもすみそうだ、とおれはセットドリンクのプラスチックのストローを噛む。食べられなくてよかった。

2022-05-30

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