空から来た少年

最初見たときはなんか星かな? って思って、でもどんどんこっちに近づいてきて、ていうか落ちてきて、空から、全体的には銀色で赤とか黒も混じっててえっこれ新手のセンチネル!? でかいし!? って思ったんだけどさなんか違うっぽいしこっち攻撃してこないしどんどん落ちてくるしみんなを起こすにはちょっと時間が足りないから学園中のクッションとかマットレスとかを落下予想地点に置いといて、庭のまんなかでよかったなあって思いつつ、こういうとき羽とかあったら便利なんだろうけどないからさあ、まあでもここまでだいたい三秒で、よしこいオレが受け止めてやる! って構えてたらなんかどんどん縮んでくわけ、何!? どういうこと!? 男の子じゃん! って上空三〇メートルくらいのところでわかってさほんとオレじゃなかったら間に合わなかったからなって走って、走って、追いついて、その空から落ちてきた男の子を無事キャッチしたわけよ。

じゃーん! オレの華麗な活躍! と椅子に座って両手を広げてみせる目の前の青年は、銀色の髪にブラウンの瞳、年齢は自分よりは年上だけど、そこまで上って感じには見えない。頭にはパイロットがするようなゴーグルをしている。ゴーグルも相まって服装はレトロだ。
ベッドで目を覚ました朝倉リクは、起きぬけにものすごい早口でいろいろ捲し立てられ、なにがなんだかわからないままに、
「えーと、とりあえず、ありがとうございます……
と答えた。
「まあまあ、遠慮するなって。あんな高いところから落ちてきたら大変だろ? これでも食えよ」
青年が差し出してきたのはバナナだった。あれ、さっきまで持ってなかったはずだし、席を外す余裕はなかったはずだし、どこから持ってきたんだろうか。お腹が空いていることは事実だからありがたくもらうこととする。
リクはウルトラマンジードとして宇宙警備隊の任務についていたところ、途中でブルトン――赤や青に適当に塗られたテトラポットによく似た、生態不明の怪獣だ――に遭遇してしまい、ゼロの『ブルトンはマジでヤバイ』ということばを思い出したのはいいものの、そのときにはもう遅く、重力場に飲み込まれて無理やり多元宇宙マルチバースを渡らされることになってしまった。
その勢いで地上に落下し、現在に至る。
さいわいなことに、落ちたこの星も地球に似ている。汎宇宙翻訳機があるおかげで、言葉も通じるし。
これ甘いなあ、とバナナを食べ終わったところで、この青年の名前も知らないことに気付く。
「あの、お名前伺ってもいいですか……? 僕は朝倉リク」
「オレ? オレはピーター。ピーター・マキシモフ。よろしくな、リク」
ピーターが手を差し出してきたので、リクは握り返してやった。そういう文化圏なのだろう。
笑顔で手をぶんぶん振り回してくるので、やんわりと手を離して、リクは立ち上がる。
「え、大丈夫なの?」
訝しげなピーターに、リクは、
「こう見えても丈夫なほうなんで」
実際ほとんど傷にはなっていないし、彼のはなしがほんとうなら地面にぶつかってもいない。ブルトンにすっ飛ばされたときのめまいはあるが、寝ていたら治ってしまった。
じゃあ僕帰るんで、と立ち去ろうとしたとき、リクはあることに気が付く。
――ウルトラカプセルがない!
ジードの姿になるためのカプセル、それがなければもちろん次元は超えられないし元の地球に戻ることもできない。
リクはおずおずとピーターに尋ねる。
「あの、ピーターさん」
「ピーターでいいよ」
「僕が落ちてきたあたりになんかその……小さな筒状のものは落ちてませんでしたか?」
「うーん、見覚えはないな」
ちょっくら探してくるわ、とピーターは言って、鋭い風が一瞬吹いた。
「やっぱりないわ」
「え、今見てきたんですか?」
「当然」
あれ、オレ説明しなかったっけ? 説明してないかもなあ、説明していいんだっけ、まあチャールズがこいつは悪いやつじゃないって言ってたし、オレが拾ったし、こいつもなんかでっかくなるしなあ、とかぶつぶつ呟いてから、ピーターは、
「そうそう、オレは誰よりも早く動ける、だからクイックシルバー」
「クイックシルバー?」
「ヒーローとしての名前」
このひともヒーローなのだろうか。少なくとも自分を助けてくれはしたようなのだが。
「百聞は一見に如かず、ってな。とりあえず見てけよ、学園を」
そう言うとピーターはリクたちのいた部屋の扉を開けた。そこには。
「え……?」
その廊下には、熱くない火花を周囲に撒き散らしながら歩く少女がいた。青い肌をした少年がいた。赤いサングラスをかけた少年がいた。獣のようにけむくじゃらの男がいた。姿が消えたり現れたりする少女がいた。
みな普通の人間であるようには、見えない。
「みなさん、宇宙人なんですか?」
「いや、ミュータントだよ」
ピーターは言う。
「ここにはヒトとは違う力を持ったヤツらがいっぱいいるし」
また風が吹く。ピーターの手にはドーナツとコーヒーが二つずつある。
「オレもそのひとり」
ピーターはリクにドーナツとコーヒーを渡してくれた。
「で、たぶん、あんたもそのひとり」
「まあ、ヒトと違う力を持ってるのは、ほんとうだけど……
リクはウルトラマンだ。ミュータントとかいうものではない。
でもそれは、今問題ではない。
とりあえずコーヒーを一口飲む。苦い。
そんなリクをよそに、
「ようこそ、恵まれし子らの学園へ」
って言うのは、ほんとはオレの役目じゃないんだけどな、とピーターは舌を出して笑う。

「ああ、なるほど、他の次元から来たんだ」
学園のオープンカフェテラス。山積みのお菓子――さっきピーターが持ってきたものだ――を前に、リクはピーターにどうしてここに落ちてきたのかを説明した。カプセルが必要なわけも。
「信じてくれるんですか?」
「信じるも何も、ここってなんでもありだからさ」
ちょっと向こうの芝生では羽の生えたひとが空を飛んでいる。なんでもありだ。
「たぶんハンクとかチャールズが力になってくれるよ」
あとでちゃんと紹介するわ、とピーターは言う。
そして、クッキーを三枚口に放り込んで、もぐもぐと食べて、コーヒーで流し込んでから、リクに尋ねる。
「でも、どうして帰りたいんだ?」
「え?」
「アンタの話だと、宇宙を守るために戦わなくちゃならないんだろ? 自分の身が危ないわけでもないのに」
ここにだって戦いはある。でも宇宙っていうのはちょっと、広すぎないか? とピーターは言う。
リクは、すこし間をおいてから答える。
「ピーターも、自分はヒーローだ、って、言ってたじゃないですか」
「ヒーロー、っていうか、自分の足の速さで届くひとを助けてるだけ。もっとたくさんのひとを救えるヤツは、ここにはたくさんいるよ」
「僕も同じです」
思い出すのは大きな手のひら、自分の手のひら。それで助けてきた、ひとたちのこと。
「僕よりも強いひとは、いっぱいいるかもしれません。でも、僕にしか救えないものは、かならずあるんです。それはみんなも、同じですから」
そして僕を助けてくれた、ひとたちのこと。
「へえ、なんか若いのにしっかりしてんな」
ピーターはリクの肩を叩いてきた。ちょっと痛い。
そうして、ほら若いんだからもっと食え、と水色のクリームに銀色のアラザンがかかったカップケーキを差し出してきた。

2023-07-24

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