平凡な仕立て屋S氏の告白

わたしは仕立て屋、平凡な仕立て屋ですよ。
だけれども誇りはあります。
顧客の情報は漏らさない。
たとえあなたが最悪のヴィランだとしても。

ええ、だから、脅しても無駄です。拷問は勘弁していただきたいが。
「奴らの弱点を教えてくれ」
だなんて、そんなことを言われても困ります。
ハンマーを下ろしてください。何をする気ですか。
手がなくなったら仕事ができませんからね。
歩けなくっても、まあ、仕事はできるかもしれないが、かなり不便だ。
この町に仕立て屋はわたしひとりしかいないんだ。
ヒーローもヴィランもたくさんいますが。
見習いはいるが――サイドキックって呼べるほどじゃない。まだまだ半人前、この仕事を任せるにはまだ早い。
採寸の手伝いくらいしかさせられませんよ。

普通の仕立て屋はお客様に合わせて服を設えます。
サイズを測り、要望を尋ね、ぴったりの服を作る。
普段用のシャツからとっておきのスーツまで。赤ちゃんがはじめて着る服から、死出の旅へと赴くための装束まで。
それと同じことをやっているだけなのに、ああ、机を叩くのもやめてくれよ、小心者なんだわたしは。
見習いが起きてしまうかもしれないじゃないか。あいつは何も知らないんだよ。

これはわたしの仕事。わたしが引き受けた仕事ですからね。
話すか話さないかもわたしが決めることです。
とりあえずその武器をしまってもらえませんか。
できれば危ないビームとか、炎とか、そういうこともやめてほしい。

それでは少し、話をします。
あなたの要望に応えられるかはわかりませんが。
わたしの仕事の、話をします。

小さな町に、大きなヒーロー。
偉大さゆえに、正体がばれてはならぬヒーローたちの、
コスチュームを作るのが、わたしの仕事。

ヒーローたちを、阻むヴィラン。
顔が割れたら、すぐに捕まってしまうヴィランたちの、
コスチュームを作るのも、わたしの仕事。

最初に来たのが誰だったのか、わたしは知っていますが、あなたは知らないでしょう。
ある日やってきた彼――もしくは彼女は、まるで銀行強盗みたいなマスクをして、変声機をつけて、こう言ったんです。
「身を隠すための、服を作ってほしい。正体は明かせないが、その分お金は払います」
正確には違うかもしれないが、だいたいそういった内容です。
わたしは仕立て屋、依頼があれば服を作ります。
ちょっと特殊な能力があったら、それにも対応しますしね。
腕が伸びたり、ビームを撃ったり、空を飛んだり、炎を出すんなら、それ相応の生地で、それ相応の縫製をしなくちゃいけない。
それはわたしにとって挑戦的な仕事で、非常に楽しかったことを覚えています。
数週間後、納品したときの依頼者の嬉しそうだったこと!
「これで仕事ができます」
なるほど、特殊な仕事着だったのだろう、とその時のわたしは納得しました。

だから、テレビでそのコスチュームを見たときは、びっくりしましたね。
あの時作ったあの服が、フルカラーで画面に映っているわけですから。
しかもこの街を守るヒーローとして!
そしてわたしは自分が何をしたかを知ったわけです。

それからというもの、不思議な仕事が舞い込むようになりました。
わたしが宣伝したわけではありません。
口コミで広がったのでしょうか。
顔を隠した依頼者たちが――時には顔のない依頼者や、一般的な人間の形をしていない依頼者もいましたが――大勢やってくるようになったのです。
忙しかったけれども、よい仕事ができることは、喜ばしいことでした。
あの赤は、あの青は。あの靴は、あの手袋は。
わたしの作った服なのです。
みんなに宣伝してまわりたかったほどでしたが、わたしは慎ましやかな仕立て屋、そんなことはしません。

どこでその依頼があったのかは覚えていませんが、覆面の依頼者が来たことは確かです。
その頃には普通の客よりも、そういったひとの方が多くなっていましたね。
「身を隠すための、服を作ってほしい。正体は明かせないが、その分お金は払います」
そういったことを言われました。
普段どおりの仕事です。
採寸をして、要望を聞き、ぴったりの衣装を作る。

しかし、テレビでそのコスチュームを見たときは、びっくりしましたね。
あの時作ったあの服が、フルカラーで画面に映っているわけですから。
しかもこの街を襲うヴィランとして!
そしてわたしは自分が何をしたかを知ったわけです。

ヒーローとヴィランの仕事に差をつけたかって?
そんなことするわけがないでしょう。
どの仕事も、仕事です。

普段のシャツと、特別な服と、同じように作っているだけです。
当然保証もあります。一年以内なら無料で直しますよ。
一度仕立てたドレスを、子供用に作り直してほしいっていう依頼もありましたね。
ここに記録が残っています。すべての注文のね。
おっとそれを見たって何もわからないでしょうあなたには。わたしにしかわからない方法で記していますので。
もうそろそろ見習いにも記法を教えるべきですが、未だそれはなされていないので、何をしたって無駄ですよ。

だからもちろん、彼ら彼女らの弱点も知っている。
できるだけ完全な服を作るのが仕事ですから、弱い部分も知っている。
胸囲、ウエスト、ヒップ、手首や足首まで。すべての寸法を測りましたからね。
場合によっては頭囲も。帽子が必要なひともいるでしょう?
シルクハットを作るのは楽しかったなあ。あれにはギミックがあるんですよ。
おっと口を滑らせるところだった。
でもこの街に、シルクハットを被ったヒーローも、ヴィランも、何人もいるでしょう?

ええ、知っていますよ。
この街の治安が悪くなってきているってことは。
他の街からもヴィランが集まってきているんですってね。ついでに元からいたひとたちも活発に活動している。
警察官の友人は休む暇もなく捜査に取り掛かっているそうです。
わたしもある種の仕事が増えました。衣装を繕ってくれ、新しく作り直してくれってね。
あなたがただけじゃないんですよ。一般の人だってそうです。
殺されてしまったひとのために、生前彼が着ていた洋服を持ってきて、このひとが最期に着る服を作ってくださいという依頼をしてくるひともいる。
仕事からじゃなくって、この街に住む人間として、悪くなってきているのはわかりますよ。
食品の値段は上がり、子どもたちの笑顔は減り、市民税もなんやかんやと理由をつけて上がっていく。
みなが安心して暮らせる街でなければ、仕立て屋の出る幕はありません。
ちょっと贅沢な服なんて、買ってくれるものはいないのです。

だからもちろん、あなたが誰なのかもわかっているんですよ。
どんなに顔を隠したって。どんな服を着ていたって。
わたしの作った服を着ているのなら――わたしが採寸したことのあるひとならば、誰だってわかるんだ。
普段はそんな真っ黒な服は着ていませんよね。
だけれども。
熟練の仕立て屋は、服の上からだいたいのサイズが分かるものなんですよ。

弱点を教えてくれとあなたは言いましたね。
知っていますよ。
だけれども教えられません。

依頼に合わせて服を作るのがわたしの仕事。
依頼を持ってこないあなたは、わたしの客ではないのですから。

あなたがこうして来た時点で、警察に連絡をしました。
わたしが? いえ、優秀な見習いがそうしたんですよ。
有事の対応は教えてますからね。
携帯端末でここの会話は全て聞かれています。
今頃は精鋭部隊がこの部屋の周りを取り囲んでるのではないでしょうか。

わたしは仕立て屋、平凡な仕立て屋ですよ。
だけれども誇りはあります。
顧客の情報は漏らさない。
たとえあなたが最強のヒーローだとしても。

2019-10-07

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