きたおか しゅういち おかねが だいすき - 2/3

ほんとうはおかねがだいすき

ある朝、秋山蓮が気がかりな夢から目覚めたとき、自分がベッドの上でカネゴンに変わってしまっているのに気が付きました。
でっぷりとした茶色い腹が見えます。なぜ寝転がっているのに見えるのかというと、目が触角の上方に付いていて、それは自在に動かせるからです。
腕もしわしわで茶色いです。故にこれはカネゴンであると判断しました。
これというのは秋山蓮のことです。秋山蓮というのは自分のことです。
気がかりな夢というのはまああれで、別にミラーワールドで仮面ライダーがサタデーナイトフィーバーしているとかそういうのではなくて、謎の繭のようなものに入ってやたらサイケデリックな映像を見たというだけです。
残念ながら秋山蓮はその夢を言い表すのに適切かつ十分な語彙を持ちあわせてはいないので、みなさんにご紹介できないのが残念です。虹の卵とアメリカのお菓子を煮詰めてオーロラでも掛ければ大体同じ物が再現できるでしょう。
秋山蓮は毎朝の習慣としてロングコートを着ようとしました。だけれども、サイズ的に不可能です。どうやったってつんつるてんになるのです。見栄を張って細身のものを買ったからだという説はありますが、その時にはカネゴンになることを予見していなかったので致し方ないことです。それでも無理やり片袖を通してみたら、バランスを崩して転びました。
天井が見えます。カネゴンの体というのは人間よりもやわらかくできているので、あまり痛くはありませんがそこそこ精神的に凹みます。触角がしおれました。

試行錯誤の末ロングコートは着られなかったので羽織ることとして、とりあえず本屋に行ってみました。
入るとすぐに、「カネゴンになったらすべき10のこと」という本が平積みになっていました。
そんなにこの本には需要があるのでしょうか。今までは人間向きの本もそれほど読んだことがなかったので本屋事情というのはわかりませんが。何はともあれめくってみると一番最初の章にはこのようにありました。

『一章:カネゴン生活入門~まずはカネゴンになった原因を探ろう!
経済産業省によると、カネゴンになったひとの九割が一週間以内にパンを食べ、水を飲んでいます。そして、カネゴンになったひとの十割が前日に他人のお金を拾い、夜にはサイケデリックな夢を見ています。そう、カネゴンになるひとは、前日に他人のお金を拾ったひとなのです!』

と書いてありました。そして以前には必要性を感じません。
思い返せば、昨日五十円玉を拾った気がします。道を歩いていたら五十円が落ちていたので拾ったのです。自動販売機の近くだったでしょうか。特にお金を探して歩いていたのではないのだということくらいは、秋山蓮の名誉のために述べておきます。しかし見つけた時に、銀色だったから一瞬百円かと期待したことがないと言ったら嘘になります。一円は一円感がするのでわかります。なんてったってアルミ製ですからね。輝きが違います。厚みも違います。
それにしても五十円です。
そんなことでカネゴンになるのなら、とっくの昔になっていてもよいのではないか。
秋山蓮はアンテナのような目をくるくるさせながら考えました。
ひとのお金を拾うとカネゴンになるとするならば、あのお金が好きそうな北岡やあの食べるのにも困っていそうな浅倉もカネゴンになってしかるべきではありませんか。しかし前者は金を拾わなくてもよいほど金持ちであろうし、後者は貨幣経済に組み込まれているようには思えません。
それからあの馬鹿というか常にお金に困っていそうな城戸真司というものも、お金を拾ったことがありそうだ、つまりカネゴンになっていてもよさそうな気がしますが、サイケデリックな夢を見るほど脳が複雑にできているとは到底思えません。それに、あれは馬鹿なので少額でも警察に届けたりするだろうと推測されます。
後ろで別のカネゴンが待っていたので、少しばかり睨んでから立ち去りました。しかしながら、カネゴンがどこを向いているのかさえ、特殊な訓練を積まないと判別が難しいため、おそらく相手には伝わっていないのです。

街を歩いていたら子供に「カネゴンだ!石を投げよう!」と小石をぶつけられました。投げ返そうとしたら逃げられました。カネゴンはそんなに足が速くないのです。足が短いからですね。
イラッとしたのでショーウィンドウを殴ったらミラーモンスターがいました。ちなみにカネゴンはやわらかい生き物ですので、ショーウィンドウに被害はなかったことをお伝えしておきます。器物損壊の罪には問われません。
いつもどおり恰好よく変身しようとしたら、コートが飛んでゆきました。そりゃあそうです。羽織っているんですから。飛んでいったコートを回収してたたんでから、もう一度変身ポーズを取りました。今度は成功です。ベルトにはジャストフィット機能でも付いていたのか、腹回りが何倍になっても大丈夫なようでした。しかし、変身しても、体格は改善されませんでした。頭は人間サイズに小さくなりましたが、その分アンバランスです。王蛇よりも腹が出ているという事実は、スタイリッシュだと自分のことを考えている秋山蓮、この場合はナイトですが、にとってはショックでした。
カネゴンになっても筋力等にはそう変化がなかったことは不幸中の幸いで、ミラーモンスターはあっさり倒せました。ダークウィングがこちらを見てきます。体型が変わったから、中の人が変わったのかと思ったのでしょう。

戦ったらおなかがすきました。そういえばカネゴンという生き物はお金を食べて生きているのですと聞いたことがあります。胸にカウンターが付いていて、ゼロになると死ぬようです。今千八百二十円です。
ポケットの中には皺になった千円札があったので食べてみました。小気味いい音を立ててカウンターが上がります。後は小銭しかありませんでしたが、食べないよりはましだと口に放り込みます。ちょっとだけカウンターが上がりました。人間だった頃は紙幣なんてインクと紙のにおいがしてそんなにおいしくないと思っていたのですが、カネゴンになった今ではとてもおいしいのです。ついでに十円玉はキャンディみたいだと感じられます。
ナチュラルに人間だった頃とか考えてしまって落ち込みました。
手塚海之はコインを三枚投げました。表、表、裏。金属質な音を立ててコインは万有引力の法則に従いました。つまり床に落ちました。この感じだと、これから知人に会うそうです。それから、カネゴンの相も出ています。
「何だ、お前だったのか」
目の前にいつの間にかカネゴンがいて、そいつが話しかけてきました。
占いは当たりました。カネゴンです。
「また随分と馴れ馴れしい口を利くカネゴンだな」
そうしたらカネゴンはロングコートのポケットからカードデッキを見せてきました。ナイトのものです。ドヤ顔です。カネゴンですが。
占いは当たりました。秋山蓮です。
「お金の落ちる音がしたから来てみたんだがな」
カネゴンという種族はお金の落ちる音に敏感だと聞いたことがあります。秋山蓮がカネゴンになったとは初耳でしたが、カネゴンになったということはその音を聞きつけてやってきたのでしょう。
「残念ながら仕事道具だ」
なんだかいい雰囲気のコインなので、手塚はこれらを愛用しています。
「しかもこれは日本円じゃない」
レートがわからないので、これを食べたっていくらになるかわからないではありませんか。
「食べたら両替できるような気がするから一枚くらいよこせ」
その自信がどこから来るのかが、手塚には皆目不明でありました。が、そんなことを言うと面倒くさそうなのでやめておきました。
カネゴンもとい秋山蓮はコイン占いの代金の入った箱を見ています。これもさすがにあげられません。
「コインはあげられないが、占いはただにしておいてやろう」
コインを投げます。表が三枚です。
「どうやら誰か気のいいやつがお金をくれるそうだ」
「馬鹿にするな」
と言って秋山蓮は去ってしまいました。コートをひらひらさせながら。まあ占いは当たるので問題なく、彼は食料を手に入れることができるでしょう。
城戸真司は少しばかり困っていました。
眼前の秋山蓮と主張するロングコートを羽織った何者か、というかものすごく偉そうなカネゴンが金銭を要求してきたのです。
開口一番「金返せ」というのはないと思います。いつもそうな気もします。
あのロングにも程があるロングコートを着たひと、現時点ではカネゴンですが、は秋山蓮しか見たことがないので、ふてぶてしい発言内容も加味した結果、椅子にちょこんと座っているカネゴンが秋山蓮である可能性は高いとは思われます。
「お前、本当に蓮かよ」
と言ったらそのカネゴンはカードデッキを持っていました。
カネゴンになっても契約続行なのでしょうか。変身したらどうなるんだろう、という興味はあります。戦いたくはありませんが。

それにしてもカネゴンです。以前カネゴンに取材して報酬を支払ったら即座に食べられたことがあって、その時は驚きました。OREジャーナルはカネゴンにでも取材しないとやっていけません。新米記者は色モノ取材に回されることもありますし。
カネゴンの生態ではなく、リアルな生活を知りたいと密着し、大した成果は正直得られなかったのですが、最後の最後で思いもがけないリアルさに遭遇したのでした。
カネゴンはお金を食べるものです。
そしてこのカネゴンはお金を要求しています。
つまりこの秋山蓮だと自らを主張するカネゴンは、城戸真司からお金をもらって食べるつもりなのです。
困ります。この生き物は世の中に流通している貨幣の量を減らそうとしているのです。
自分もそんなにお金があるわけではない、むしろない城戸真司としては、あげるわけにはいかないのです。しかも今は給料日前ですから、余計に金銭的な困窮を抱えているのです。
明後日だったら、考える余地があったのでしょうが、今日の昼ご飯をどう安く抑えるかを考えている状況で、お金をそのままよこせだなんて贅沢な話です。
しかし秋山蓮っぽいカネゴンの胸のカウンターが二百を指しました。おなかがすいていそうです。ちょっとかわいそうでもあります。
「しょうがないなあ、俺だってこれしかないんだからな」
千円渡しました。お札が一枚城戸真司の財布から減ってしまいました。食べられました。カウンターの上がる音は諸行無常の響きです。
でもおいしそうなのでよいかなと城戸真司は思います。食い扶持は自分で稼いで欲しいのですが。
というか俺の所に来る前にまずあのやたらすごいバイクを売ったらよかったんじゃないのか、とは流石に言えませんでした。 

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