きたおか しゅういち おかねが だいすき - 3/3

ゴローとごろーちゃん

これは流石に特定外来生物なんじゃないかな。毛むくじゃらの生き物を見て、きたおかせんせいはそう思いました。
ごろーちゃん曰く、買い物に行ったらいつの間にかついてきていたのだそうです。歩いても、走っても、車に乗ってもついてくるガッツは評価すべきですが、おかげで今、弁護士北岡秀一法律事務所にリスザルがいるという事態が発生しているのです。天井に穴を開けた謎の生物といい、ここのところ人間以外の生き物が弁護以外の要件でやってくることが多いものです。
「これ、どうします」
リスザルはごろーちゃんの肩に乗っています。ごろーちゃんはつまんで地面におろそうとしますが、その度に登ってきます。
そのリスザルには銀色の首輪が付いていて、そこには『GORO』と書いてありました。ゴローです。
「ごろーちゃんと同じ名前じゃない」
しかしながらゴローという名前であると推測されるリスザルはごろーちゃんとは違ってちょこまかしているのです。名は体を表さないのです。
「ま、そのうち飼い主が引き取りに来るだろ」
リスザルですし、置いておいてもそこまで邪魔ではありません。リードで繋いでおけば、いい具合にインテリアの一部になるでしょう。

「ごろーちゃん、ゴローはこんなに大きかったっけ」
「そうっすよね…」
ゴローと呼ばれるリスザルは、ごろーちゃんの作る料理を食べてすくすく育ちました。余り物のフルーツ等でしたが、リスザルには申し分ないほどのグレードです。そのかいあってか、ありすぎてか、ゴローはすくすく育ちすぎました。
今現在のゴローは、体長一メートル、尻尾は一メートル五十はあります。部屋の中には置いておけなくなったので、中庭に放しました。リスザルだったとは到底思えません。というよりは、ゴローはリスザルだったのでしょうか。
「本当に飼い主は引き取りに来るのか…」
近所から苦情が来ないわけでもありません。ここまで大きいと、足音で眠れないとか、悪徳弁護士引っ越せとか、そんな電話が来るものです。寝ているゴローをぬいぐるみと間違えて近づき、起こして大変なことになったクライアントもいました。世のリスザルと違って、あまり引っかかないのだけは、非常に飼いやすいところではありますが。
「ゴローは置いておいたほうがいいです」
ごろーちゃんが、紅茶をカップに注ぎながら言います。
「飼い主はいなさそうだし、野生にだってこいつの居場所はないですから」
なるほどごろーちゃんの言うことは正論です。生態系はみだりに破壊してはいけません。
「とりあえず、誰かが来るまではこうしておこうか」
ゴローはふたりの会話もつゆ知らず、中庭で蝶を追いかけています。蝶を追いかけるには体が重すぎて、上手く捕まえられません。

カネゴンくんは不機嫌でした。
本屋に行ったら、新入りのカネゴンに睨まれたからです。黒いロングコートを着た偉そうな奴でした。カネゴン新生活マニュアルを読んでいたのですから、新入りのカネゴンに違いありません。
不機嫌だったので、おなかがすきました。不機嫌でなくてもおなかはすくのですが。パラシュートで吹っ飛ばされてからこちら、街へ戻ってくるまでは大変だったのです。お金はありませんし、これまでの貯金でなんとか食いつないでいたのです。
ふらふらしていたら電柱にぶつかりました。起き上がったらポスターが見えました。
『北岡秀一弁護士事務所こちら』
そうでした弁護士です。弁護士というのはお金を沢山持っていてそれを気前よくくれる派手なシャツを着た強面のお兄さんであると、カネゴンくんは認識しています。それに、前に行った時にはパラシュートで穴を開けてしまった気がします。カネゴンは個体差もありますが記憶領域はむしろ人間よりも良いものです。
屋根の修繕をするアルバイトをして、そしてお金をもらおう。
自分がやったのだから直すのが当然だということをすっかり棚に上げて、カネゴンくんは矢印に示されている方向に進みました。

秋山蓮はもっと不機嫌でした。
戦わなければ生き残れませんが、それ以前に食べなくては生き残れません。
スーパーマーケットに行っても、コンビニに行っても、食べるものが売っていないという状況は生まれて初めてのことです。買うために使うものを食べなくてはならないという、今までの常識からはかけ離れた現状です。
先ほど城戸真司にもらった、千円は当座の腹の足しになりました。花鶏のシフトに入ろうとしたら、『あら蓮ちゃん、カネゴンだとちょっと動きづらいんじゃない』と事実上暇を出されました。そんなことがあるかと、カウンターに入ろうとしたら引っかかったのでそこは引き下がることにしました。
いち早くカネゴンから人間に戻らなくてはならない。
秋山蓮はそう決意して、お金が落ちていないか探すことにしました。
通りすがりの人と肩がぶつかりました。殴ります。カネゴンの拳はふにゃっとしていてやわらかいので、双方に困惑のみを残しました。
そういうわけであてどもなく歩いているのです。バイクに乗るには、人間用のヘルメットをかぶることができないので。
またひとにぶつかりそうになった所、コンクリート塀に張り紙を見つけました。
『ペットのサルを探しています』
カネゴン流の、もとい秋山蓮風の思考からすれば、謝礼はあるはずなのです。そして、城戸真司がサルの取材に行くとか言っていた気がします。拾ったサルが大きくなったのだそうです。
つまり、城戸真司の行くところには賞金の元が転がっているに違いない。そう考えて、秋山蓮は法律事務所に向かいました。

城戸真司は大きなサルの噂を聞きつけて北岡秀一法律事務所にやって来ました。記事にするためです。
きたおかせんせいが、たとえOREジャーナルでも、記事にしたら飼い主が見つかる確率が上がるのではないかと、城戸真司に連絡してきました。
さしもの城戸真司も与太話かと思っていました。城戸真司でもキングコングが実際にいないことはわかります。しかし本物を目の当たりにすれば、そのようなものが実在すると信じないわけにはいかないのです。
サルです。しかも巨大です。
連絡をもらった時には一メートルほどだと聞いていたのですが、目の前にいるものは、明らかに二メートルはあります。尻尾はふさふさで、面白そうだったので触ろうとしたらごろーちゃんにそっと制されました。
「危ないっす」
ゴローとか言うらしいサルは野生の目をしているので、きっと危ないのでしょう。
触らないように観察していたら、カネゴンが法律事務所にやってきました。
黒いロングコートを羽織っているので秋山蓮です。
秋山蓮はゴローを視認すると、ずかずかと城戸真司に歩み寄って、携帯電話を奪いました。ロングコートを一旦脱いでポケットから携帯を取り出すのよりも、城戸真司から拝借したほうが早いと判断したのです。
「おい城戸、携帯貸せ」
秋山蓮は城戸真司の携帯電話で、チラシに書いてある電話番号に電話をしました。それから三十秒が経ち、一分が経ちました。
誰も出ません。
「それ、いたずらだったんじゃないの?」
きたおかせんせいがクールに言うと、秋山蓮はそれなりにしょげました。
写真を撮っているとまた来客が現れました。今度は秋山蓮ではありません。そいつはゴローの方に歩いていきます。
「あ!お前、あの時のカネゴン!」
いつだか取材をして目の前で謝礼を食べたカネゴンです。間違いありません。

カネゴンくんはゴローを見て、なんだか懐かしいように思いました。
一回も会ったことはないのにもかかわらず、どこかで遊んだことのあるような気がしたのです。尻尾もふさふさですし。なのでカネゴンくんは尻尾を掴みました。それどころか体に巻いてみました。
ごろーちゃんは止めようとしましたが、意外なことに何も起こりませんでした。ごろーちゃんはある程度はゴローと仲良しである自信はありましたが、尻尾に触ったことはなかったので、少し羨ましく思いました。
突然現れたカネゴンくんの不審な行動に、ひともカネゴンも驚いています。
ひとつ咳払いをして、きたおかせんせいは切り出しました。
「それお前のなの?じゃあ引き取ってよ」
これだけ仲が良いのだから、それは飼い主である可能性は高いでしょう。
カネゴンくんは頷いて、ゴローに目配せしました。そうしたらゴローはついていきました。勿論ゴローはカネゴンくんのものではありませんが、ゴローがこちらへ来たがっているような気がしたので、それが最善だと行動したのです。ゴローはお金を食べないようですが、どちらかといえば人間よりもカネゴンに近そうです。
「よくわかんないけど、一件落着したってこと?」
城戸真司が取材メモの最後に書き加えます。『そしてそのサル、ゴローはカネゴンに引き取られました』
冷静に考えて見るとわけがわからないのですが、その時の城戸真司は納得しました。
カネゴンくんとゴローは、それからいろんな紆余曲折を経て、安住の地を見つけるのですが、それはどの時間軸でさえも、知られ得ない物語なのです。

「ある意味カネゴンの恩返しなのかな」
「寂しくなりますね」
「そう?俺はもう御免だね」
日常生活の中で、訳のわからないものは、ガラス窓の向こうかのぞいてくるマグナギガくらいで十分です。
あいつにも餌をやらなくちゃなあと、きたおかせんせいは鏡に向かいました。

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