「ここは通しませんよ、タロウさん」
かろうじて破壊を免れた王苦市立公園、人々を獣人の群れから逃していたところ、桃谷ジロウはかつての――何と形容するのが彼にとって適切なのか、わからない、敵ではなく、ライバルではなく、主君ではなく、友人でもなく、戦友というのが一番近いのか、それもまたぴたりとはまる表現ではないのだが――知己を見てとった。
そのひとは赤の戦装束を身に纏い、刀を構えて泰然と歩いてきていた。獣人たちはその姿を見るとそそくさと逃げ去る。
今のドンモモタロウが『何』であるのか、ジロウは知らない。少なくとも、自分の知っているものでは、なさそうだ。
「――ジロウか」
それでもその声は、知っている声だ。
だからジロウは、明るく答える。
「はい!」
ジロウは龍虎之戟を目の前に構えてから腕を引き、ギアを取り出してセットする。
「アバターチェンジ!」
可能世界から顕現した金の鎧、ネオンのラインがひときわ輝く、ドンドラゴクウがそこにいた。
ドンドラゴクウは龍虎之戟を脇に構えて走り出した。ドンモモタロウはザングラソードを下段に構える。抜刀のスピードで龍虎之戟を受ける。
金属質な音が公園に響き渡る。刃をあしらって、ドンドラゴクウは龍虎之戟でドンモモタロウを突こうとする。
右に避けたドンモモタロウ、ドンドラゴクウは龍虎之戟を支点として地面を蹴り、勢いよくドンモモタロウの頭を狙った。かわされたところを龍虎之戟を大きく振りかぶって追撃する。
「脇が甘いぞ」
ドンモモタロウはドンドラゴクウの懐に入り込んで蹴り上げた。腹部を押さえながら後ろに下がるドンドラゴクウ。しかし、ドンモモタロウをしっかりと見据えている。
「迷いがないな」
ドンモモタロウの冷静な声に、ドンドラゴクウは答える。
「迷うところなんて、どこにもないじゃないですか」
龍虎之戟を支えにして立つ、ドンドラゴクウ――桃谷ジロウの態度は明るい。
「だって、全力のタロウさんと戦える機会、めったにないですよ」
ドンモモタロウは――桃井タロウはいつだって全力だった。仲間内での手合わせのときも。それはよく知っている。たぶんちょっと気を抜いたらすぐに斬られたのではないだろうか。
だけど。
それと同時に、本気ではなかったのも、わかる。
彼が姿を消したときの、最後の戦い。
そのときのドンモモタロウは、まさに鬼神のごとき覇気があった。すべてをなぎ倒す力があった。
ジロウはあれと戦いたかった。ほんとうの、本気の、桃井タロウと。
「正直、僕にはタロウさんが何をしたいのか、何をしようとしてるのか、わかりません」
獣人を引き連れて現れて、街の片隅を更地にして、人間たちを追い詰めていく。
それが自分の知る桃井タロウのすることだとは、到底思えない。
でも、とジロウは龍虎之戟を掲げてみせる。銀色の刃が陽光にきらめく。
僕は――かつては僕たちだった、『僕』は、今なら、こう言うことができる。
「それがなんだっていうんですか」
切先をドンモモタロウの首筋に向ける。
「威勢がいいな」
「僕はタロウさんを超える者であろうとしていました」
でも、と、仮面の下で笑ってみせる。
相手に届いているかなんか、関係ない。
なぜなら。
「僕はすでに、ある面ではタロウさんを超えているんですよ、今」
「それが、お前の出した答えか」
「はい」
「――いいだろう」
ドンドラゴクウは地面を蹴って飛び上がり、右斜め上からドンモモタロウに切りかかった。ザングラソードで受け流されるところまで計算済みだ、そのまま龍虎之戟を回して石突でドンモモタロウの脇腹に打撃を加える。
ふ、と息をついたドンモモタロウは左手で龍虎之戟を取り、捻って取り落とさせようとする。
地面に落ちる寸前にくるりと回りながら受け止めて、龍虎之戟を背面に回し、下から思いっきり突き上げる。ドンモモタロウはそれを払い除けて、
「やるじゃないか」
「行きますよ――」
なら来い、と言う、ドンモモタロウに向かって上段から脳天を割ろうとする、が、ドンモモタロウはザングラソードを放り投げて代わりに中空からドンブラスターを取り出し、龍虎之戟を掻い潜ってドンドラゴクウの間合いに入った。
「だが、まだまだだ」
ドンドラゴクウの左脇腹にドンブラスターを押し付けて、躊躇なく撃ち抜いた。
白銀の光に包まれて、アバターチェンジを解除するジロウ、その場に倒れそうになるが龍虎之戟を軸にしてようやく立っている。
「タロウさんって……やっぱり……」
左手で脇腹を押さえながらジロウは言う。
「やっぱり、すごいんですね!」
「そうだ」
ドンモモタロウはアバターチェンジを解くことなく、追撃をすることもなく、その場に佇んでいた。
「僕も負けてなかったんですけどね!」
そう笑うジロウに、何も後悔はなくて。
やれることはすべてやったのだ。それなら。
「あとは……仲間たちがなんとかしてくれます!」
今の自分は世界にただひとりのヒーローではなくて、仲間が、いるのだから。
ジロウの身体は光に包まれて消えた。龍虎之戟がその場に残される。
ドンモモタロウは地面に落ちるそれを見届けた後、再び周りに集まってきた獣人たちを引き連れて、次の舞台へと向かった。
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