虚飾の戴冠 - 6/14

 街中、見晴らしのよい広場。ビルの窓に赤が光る。ドンモモタロウは獣人を連れて歩いていた。人間は見つかり次第消去されており、アスファルトに覆われた広場には人影がない。
 不意に殺気を感じてドンモモタロウは振り向く。上空から無数の光の矢が空を裂いて降り注ぎ、ドンモモタロウはザングラソードですべて払い除けて、上を見る。
 光の元、赤い屋根の上、黒と白の影がそこにあった。
 ドンモモタロウが一瞥すると、獣人たちは散ってゆく。
 そうして広場には三人が残された。ドンモモタロウはザングラソードを肩に担ぐ。
「ほう、二人がかりというわけか」
「お前にはここで消えてもらう」
 白――ソノニが白銀のコンドルアローを構えながら言う。
「オレはお前が気に入らない」
 黒――犬塚翼はロングコートをはためかせる。
「同感だ、ならおれを倒してみるか」
 ドンモモタロウは皮肉げに笑う。
「そうじゃない」
 翼はドンブラスターにギアをセットする。
「いつも何も説明せずに、ことを進めようとする、その態度が気に食わない!」
 飛び降りながらイヌブラザーにアバターチェンジする翼、それと同時に光の矢を放つソノニ。
「来い、ムラサメ!」
 そうイヌブラザーが叫ぶと、どこかからニンジャークソードが飛んできて、右手に収まる。重力をその刀身に乗せて、イヌブラザーはドンモモタロウを正面から斬ろうとする。ドンモモタロウはその渾身の一撃を両手で薙ぎ払った。地面に勢いよく転がるイヌブラザー、ソノニも地上に降りてきて、
「大丈夫か翼」
「このくらい、たいしたことない」
 イヌブラザーがスライディングしながらドンモモタロウの足元に斬りかかる、
「どけ」
 とイヌブラザーを足蹴にするドンモモタロウ、ソノニはコンドルアローを分割して双剣とし、横から胴体を狙う。ドンモモタロウが刀身で受け流したところ、後ろからイヌブラザーがニンジャークソードで襲いかかる。
 これはさすがに避けられまい、と思ったところ、後ろ手にザングラソードで受け止められた。回し蹴りするドンモモタロウ、その勢いのままにソノニも蹴った。イヌブラザーとソノニはとっさに後ろに下がった。
 こいつ、後ろに目でもあるのか!?
 アスファルトに打ちつけられ、ニンジャークソードを支えに立ち上がろうとするイヌブラザー。ドンモモタロウは左手に扉から取り出したドンブラスターを持ち、イヌブラザーに向けた。
「これで終わりだ」
 冷徹に告げるドンモモタロウに、イヌブラザーは答える。
「確かに、オレはお前のことが気に食わないと思っている」
 犬塚翼が思い返すのは、桃井タロウと初めて会ったときのこと、それからお互いに正体を知った後のこと、どちらにせよ、印象は良くなかったし、もしドンブラザーズでなければ積極的に関わろうとはしなかった相手だろう。
「だが、ドンブラザーズになれてよかったし、お前が、縁を大切にする人間だとは、知っている」
 でも、こいつと出会って、悪いことばかりでもなかった。誕生日もみんなに祝われたし――彼の『誕生日』も祝った。夏美とは別れることになったが、今思えば、ドンブラザーズにならなくても、いつか別れることに、なったのだ。
「翼の言うとおりだ、お前はあらゆるものと縁を結ぶんじゃなかったのか⁉」
 ソノニはなんとか立ち上がる。
 イヌブラザーはニンジャークソードをドンモモタロウに向ける。
「そんなお前が、なぜこのような真似をするのか――世界を滅ぼそうとするのか、オレには理解できない」
 桃井タロウは、気に食わない人間ではあるが、一緒に戦うにふさわしい人間ではあった。誰よりも強いことは確かで、まあ、たまに、戦闘後に襲いかかってくるのは意味がわからなかったが、基本的には信頼できる、相手であった。
 それがどうして自分たちに真っ向から牙を剥いているのか。
 それがどうして獣人たちを引き連れてどこかからやってきたのか。
 そもそもどうして、あのとき記憶をなくしたはずの彼が、こうやって現れたのか。
 何もわからない。
 わからないまま戦うのには、慣れている。
 ドンモモタロウはいつものように――いつものようにというのは偉そうにということで、犬塚翼はそれが嫌いなのだが――言ってのける。
「あんたに理解される必要はない」
「――そうだな」
 イヌブラザーはニンジャークソードを強く握りしめる。ムラサメは答えてくれないが、こいつも同じように、思ってくれているのだろうか。
「今のオレにわかるのは、お前が、オレの――オレたちの敵だってことだ」
「その意気だ」
 この期に及んで上から目線なのがまた、気に食わない。
 イヌブラザーとソノニは同時に走り出した。イヌブラザーの方が早い。イヌブラザーは高くジャンプし、ソノニはサイドからドンモモタロウに迫る。ドンモモタロウはソノニを撃ってからドンブラスターを放り投げた。
 イヌブラザーのニンジャークソードがわずかにドンモモタロウの右腕をかする。獣人を斬ったときと同じ感触に違和感を覚えながら、イヌブラザーの左手がドンモモタロウに掴まれ、地面に叩きつけられる。ニンジャークソードがザングラソードに叩き割られる。
 ドンモモタロウがイヌブラザーにザングラソードを振り下ろそうとする。
 ここまでか、と、思ったところに。
「翼!」
 ソノニがイヌブラザーとドンモモタロウの間に割って入ろうとするのを、イヌブラザーは突き飛ばして制した。
 それにも構わず、ドンモモタロウはそのままイヌブラザーを突き刺した。強制的に人間の姿に戻されて、地面に倒れる犬塚翼。痛みはあるが、傷はなかった。
 ソノニは翼を抱きかかえた。翼はソノニに手を差し伸べようとするが、もはやその力は残されていなかった。
 なぜだ、と言うソノニに、翼は微笑んでみせた。
「さすがに……同じ女に……二回も庇われるわけには……いかないだろ……」
 翼はその輪郭を宙に溶かし消えていった。
 ドンモモタロウはそれを少し離れたところから黙って見ていた。
 うつむいていたソノニは、しかし双剣をドンモモタロウに向けて立ち上がる。
「お前だけは許さない、ドンモモタロウ!」
「あんた一人でおれに敵うと思うのか?」
 翼を消したことを何とも思っていなさそうなドンモモタロウに憤りを感じながらも、怒りを押し殺して、ソノニは言う。
「脳人三人でも倒せず、ましてやドンブラザーズ八人でも敵わないであろう相手だ」
 双剣を弓の形に組み直す。
「だが、あきらめるわけにはいかない」
 ソノニたちにとって、ドンモモタロウは最大の敵だった。今は、仲間だった。仲間のはずだった。
 だけれども。
 ソノニはコンドルアローに力を込める。
「お前は、翼の敵だ」
 弓を振り絞り、可能な限り最大の矢を、放つ。
 大気を割くその輝く矢は、光の速さでドンモモタロウへと飛んでいった。
 ドンモモタロウは高笑いしながら斬撃を放ち、ソノニの矢を相殺した。飛びかかってくるドンモモタロウの刃を、弓を双剣に戻して受けようとするが間に合わない。ドンモモタロウはソノニの剣を払い飛ばし、右の脇腹を貫いた。
「今追いつくぞ、翼……」
 ソノニの手から力が抜ける。ドンモモタロウは刃を引き抜いた。地面に倒れてゆくソノニ、その結果はわかっている、というかのように、ドンモモタロウはソノニを気にせず進んでゆく。
 ――わたしは、翼がいなければ生きていけないほど、弱いものだったのだろうか。これが愛だと言うなら、愛は、ひとを弱くするのだろうか。
 犬塚翼は愛は光だと言った。それならわたしは光に包まれているのだろう。
 これがほんとうに光なのか、わたしにはわからない。
 でも、わたしは、愛を掴んだことを、後悔はしない。
 ソノニは白い光となって、中空に消えてゆく。

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