AM4:45

多分飛ぶ。計算上は。
さっきの紙飛行機:イカ型5速は重心が前過ぎたので高く舞い上がって回転し落ちてしまった。重心位置を調整した紙飛行機:イカ型6速はまっすぐ飛んで壁にぶつかるだろう。先端の折り加減を調整する。高校生の時にちょっとだけかじった流体力学の知識は眠気に阻まれて出て来る気配がない。紙飛行機:通常17速のときは作業中の檀黎斗の頭にぶつかってしまった。今度こそは間違いなく飛ばしてやりたいものだ。
永夢と黎斗が協力してセーブデータを作っている中、九条貴利矢は暇すぎて仕方がないので紙飛行機改装事業に乗り出していた。正直言って、自分にできることは何もないので。檀黎斗を見張っているにしても、どうにもこうにも暇すぎる。なんといっても目に見える成果がない。ここ何時間も。
永夢はVRなのかわからないけれども、イマジネーションを用いて作業をしているし、黎斗はそれにああだこうだ言いながら私の神の才能がどうとか実現可能な範囲内に落とし込めだとか喚いている。いやそれやるのアンタでしょ。
「私は天才だ!」
エンターキーを盛大に叩いて黎斗が突然叫んだ。
「できたの!?」
「まだだ!!!!!」
「じゃあなんでいきなり叫ぶの?」
「たまに自分の才能を確認しておかなければな!」
「黙って働いてください」
永夢が叱ると黎斗は静かになる。他の人間相手でもそのくらい素直になれないものですかね。
ちなみにこれに類似したやりとりはもう10回は発生している。途中から本気で永夢が怒っているような気もする。
イカ型5速を飛ばしてみる。狙い通りまっすぐに進んだ。このままならイカ型初の壁到達になるのではないか、と期待に胸を膨らませたところ、急速に旋回して落ちた。
なんだかなあ、と思ったところでゲームオーバー、場の空気に不釣り合いに明るい電子音が空間に響いた。
真っ白になった檀黎斗がデータに分解されて消失する。
それから何十秒かすると土管から飛び出してくる。何事もなかったかのようにキーボードに向かっている。
何回もゲームオーバーからのコンティニューを見ていると、なんだか自然現象のように思えてくる。風が吹くと木が揺れる、とか、雨が降ると地面が濡れる、みたいなの。檀黎斗は死ぬとコンティニューする。
現に永夢もまったく気にしていない。
人間だったら過労死と呼ぶだろうそれを、軽々と使ってみせるあれはやはり人間ではないのだろう。当然バグスターなんだけどそういうんじゃなくって、普通死んだら元気になるからって死なないって。
貴利矢はイカ型7速の開発に取り掛かる。彼が生きようが死のうが消滅しない限りどうだっていいのはこちらも同じなのだ。

時計の秒針が進むのが娯楽になってきたころ、檀黎斗が立ち上がってメモ用紙をばらまきながら部屋中を走り出した。
「今度こそできたの!?」
黎斗は無理だ!と言って床に落ちているメモ用紙をまとめて口に放り込んでそのまま倒れた。
徹夜と過労と度重なる復活でただでさえ外れっぱなしの頭のネジが消し飛んでしまったのか。貴利矢はそれを見てもどこか冷静だった。ああそんなこともあるよな、くらいの。
咀嚼していたら急に咳き込み始めた。そりゃあ大量の紙を口に入れたらそうなる。
ゲームオーバー。
おそらく紙を喉につまらせたことによる窒息死だろう。検死をしなくても明白だ。
「なるほどなあ紙って食えるんだ」
食えはしないのだ、現に檀黎斗は死んでいる。
貴利矢に紙を食べる発想はなかった。今の今まで、通常の人生と死と通常ではない人生を送ってきた中で、そのような事象は存在しえなかった。目の前には文字が印刷されたコピー用紙がある。もう必要が無いので紙飛行機を折っている。
「これおいしいのかなあ」
もしかしたらイカ型8速の飛距離が良くなるかもしれない。ほら左右のバランスの問題とかで。食べたことがないだけでおいしいのかもしれない。ほらバグスターになったし。人間のときとは違うかも。右翼をかじってみる。
紙だ。
貴利矢の最初に抱いた感触はそれだった。
つるつるとしたコピー用紙が歯にくっついて飲み込みにくい。それからパルプのざらざら感が来る。できたら水がほしい。買いに行くのは面倒だ。どうにかして飲み込んだところで、喉に張り付いているような感覚と胃に重さが残る。
コンティニュー可能でそれで健康になるんならよろこんでしたくなった。やれないけど。
「全然美味しくないじゃん」
思わずつぶやくと今まさに土管から出てきた檀黎斗が答える。
「当然だ!」
今回ばかりは彼が正論である。
紙飛行機:イカ型8速は大した飛距離も出さずに落ちた。午前4時45分。

2017-08-01

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