Goodbye once (more) - 6/9


あなたへ

わたしは羊の群れを見ました。そして、羊の群れの大きさというのは可変であることを知りました。羊たちは、牧羊犬に従って、大きな群れをなしたり、小さな群れをなしたりします。そのうち一匹がはぐれてしまっても、その一匹はいつの間にか大きな群れに戻っているのです。羊たちは、草を食べ、また別の場所で草を食べ、そして柵の中に戻っていきます。わたしはそれを、歩きながら見学していました。羊は、わたしよりも走るのが早いので、そのすべての道のりについていくことはできなかったのですが、羊は、ときおり立ち止まるので、そのタイミングで追いつくことができました。
羊の群れの写真を、いくつか撮りました。緑の中に、ぼんやりとした形の白が配置されているそれらの写真は、現像されたらこの封筒の中に入れる予定です。うまく撮れていればいいなと願っています。
牧場主は、退屈ではないのか、ソフトクリーム絞り体験とかあるけど、と、言ってきましたが、わたしはずっと、羊を眺めていました。その群れを。何頭いるのかもわからないけれども、それらはひとつの生命体のようでした。羊を眺めていたら、いつの間にか太陽は落ち始めていました。
牧場主が、今日の牧場公開はこれで終わりだと言いました。わたしはそれに従いました。
わたしは、一匹であっても羊は小さな群れなのではないかと思いました。大きな群れでいるか、小さな群れでいるか。その違いだけで、羊は一匹になることは決してないのです。
帰りに、そうコテージの人に話したら、それは面白い考えだね、と言われました。
「きみは、羊はひとりきりにはならないと思っているんだね」
「はい。あれらは、たとえ一匹ずつ別々の小屋に入れられたとしても、それぞれひとつの群れでしょう」
「どうしてそう思うんだい?」
「羊たちは、まるでひとつの意思があるかのように歩いていました。そして、群れからはぐれた羊に関しても、またひとつの意思があるように思われたのです。だから、羊はたくさんいようとも、そうでなくても、ひとつの意思のもとにあるのは同じだと考えられました」
わたしは、あなたの作った世界のことを思い出しました。今はそうではない、世界のあり方を。その世界では、わたしも含めて、すべての人間が、あなたの意思のもとに動いていました。しかし、それぞれに固有の意思もあったのです。もしあの世界を上から眺めているものがいたら、あなたの意思で動いているように思われたのでしょうが。言うなれば、あなたは牧羊犬だったのです、ということがこのときわかりました。ヒトは多すぎるので、あなたはラムダを用いていましたが、ラムダはあなたの意思で動いていました。あなたという牧羊犬は、ラムダという道具を用いて、世界を群れとなしていた。そういうことだったんですね。
アレンはそれをわたしに理解させるために旅をしろと言っていたのでしょう。
しかしここで疑問が残ります。
わたしはあなたに、あの家のあの部屋に閉じ込められていました。閉じ込められていたというのは不適当な表現かもしれません。わたしはあの部屋で充足していたので。白いジグソーパズルを延々と解かされたり、ラムダから聞いた話を絵に描いたり、していたので。
あなたが牧羊犬で、ヒトが羊で、世界が羊の群れならば。
わたしは一体、何だったのでしょうか。
この手紙は帰りの列車の中で書いています。列車を予約するならば、絶対に窓側を取ったほうがいいというアレンのアドバイスは正解でした。帰り道には、また違う景色が見えるものですね。また大きな山のそばを通っています。山の緑は鮮やかで、木によってその緑は異なっており、ときおり白い花が咲いた木があります。その白が羊の白とは違うことを、今のわたしは知っています。この目がそう捉えます。
そのうちまたトンネルに入ることでしょう。トンネルの中は景色が変わらずに退屈ですが、山の中を走っているのだと思うと心が踊ります。
心が踊りますと書きますが、わたしは心を所有しているのでしょうか。
この心は、あなたが与えたものでしょうか。

大いなる山の中から
シロ

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