無名の男の最後の賭け - 7/10

おそらくはあと一回、あと一回で目標の金額になるはずだ。保険金が下りなかったとしても年金とこれでどうにか母親は一生それなりに暮らしていけるだろう。最初はこちらの借金を返せればいいと思っていたけれども、こうも上手くいくと解ったら、せめてそのくらいはしてやりたくなったのだ。
三年前の事故からこちら、貯金と障害年金で生きていくのが精一杯だった。仕送りは借金をしてでもやった。でももう無理だ。そう思っていた時にヴィラン賭博に辿り着いたのだ。
五回目だ、トライスターズもどうやら怪しんでいるようだ、だけどもう一回くらい見逃してほしい。
どうせ無名の人間の無名の行動なんだ。放っておいてくれ。

ある朝、三回も同じ番号から着信があったことに気がついた。知らない番号だ。
着信履歴にあった電話番号を調べると、ヴィラン賭博の店のものだとわかった。掛け直すと、今すぐ来いと言われた。何かあったのだろうか。ここ二週間くらいは次の計画を立てるために行っていなかったのだが。

指定された時間は開店よりも前だった。CLOSEの札がかかった扉をノックすると、店主がすぐに出てきた。
「ちょっと来い」
「何かあったんですか」
「これからはもうここに来ないでくれ」
強い語調で店主は言う。
「どうして」
「何をどうやっているのかは知らないが、お前の戦績は明らかにおかしい」
「おれは何も――」
「何もしないのにこんなにお前の賭けたヴィランが消えていくのか?しかもミッドシティにトライスターズ級まで来てやがる。こんな辺境の街に。ザ・サークルが来るのですらおかしいからな?会議に出てたとか新聞で言ってたがあんなの嘘だろう。どうにかしてあいつらを呼んでるんじゃないのか?」
「ヒーローは金じゃ呼べない」
「原則論だろ」
トライスターズやザ・サークルのような団体に所属するヒーローは、基本的には善意で行動しており、報酬を受け取らないのを自らのルールとしていた。もっとも、そのくらいしかヒーローと警察の差異はないとも言える。だからこんなヴィラン賭博が成立していたというのもある。
「そんな、毎回当たってるわけじゃない。外れたやつだって多かっただろう」
怪しまれないように、どう考えても捕まるはずのないヴィランに賭けたりもしていたのだが、それではだめだったのだろうか。
差し引きではプラス、その程度だ。賭場の匿名性は担保されているはずじゃなかったのか。
「いいか、これは普通当たるはずのない賭けなんだ。誰が捕まるかならともかくとして、誰が誰を倒すかだなんて、三回も四回も当たってたまるか。一〇〇〇分の一を三回引き続ける確率がいくつかわかるか?」
いくつかはわかるが、おそらくそういうことではないのだろう。店主は苛立たしげに言う。
「とにかく、お前はもうここに来ないでくれ。何をやっているのかは知らないが、せいぜい捕まらないようにしろよ」
おれは賭場を出た。
まだ午前中だ。これからどうしようか。

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