ある日、アロエース星人がやってきて

ある日、アロエース星人が地球にやってきて、
「我々はアロエースだ」
と言ったのだが、そのとき、意味を正確に理解した地球人は残念ながら多くはなかった。
アロエース星人は地球のことばをすべて吸収した結果、自分たちにもっとも適切な名乗りをあげたというのに、肝心の地球人がそれを理解しないのは悲しいことだった。
というか、怒ってよくない? わたしたち、と思ったのだが、わたしは。
このおはなしを語っているわたしはその、宇宙人と同じ、アロエースなのだが、わたしみたいなAスペクトラムのヒトがこれに対して怒っている様子は、あまりなかった。むしろ喜んでいた。なんだ宇宙にも自分たちと同じようなヒトがいるんだ、と言っていた。
それはそうだ。
わたしもそう思う。
宇宙にまで恋愛規範が敷衍されていたらさすがに怖すぎる。
でもそれを自分たちの名称として採用するなんて、とも思う、出身星の名前とかでよかったんじゃないか、と感じるのだが、アロエース星人としては、地球人に対して名乗るならこれなのだと確信していたらしい。
なんでだよ。
それならわたしたちも宇宙人ってことになるじゃないか。
いや、宇宙に住んでいるという点では宇宙人なのだが。地球中心にものを考えたいわけではない。でもアロエース星人だってわたしたち、地球にいるアロエースそしてAスペクトラムのヒトを無視してるんじゃないか?
アロエース星人は地球人と同じような姿をしていた。というか、地球人と同じような姿を取ることが可能であって、ほんとうは別の姿をしているらしい。別の姿ってなんだよ。別に地球人は現生人類と同じ姿をしていないからといって対応を変えないだろ……とは言えないところが悲しい。
悲しいことばかりだ。
ついでにアロエース星人たちはわたしたちと同じような疑問を地球人から投げかけられることになっていた。おいその質問は頻出だぞ。地球にいる当事者の声を聞いたことはないのか。あったら宇宙人といえどもアロエースにそんなこと聞かないはずだぞ。というかセクシャリティに関わらずそんなこと聞くな。プライバシーってわかるか? みたいなことがよくあった。アロエース星人はわたしよりも寛容なようで、すべての質問に答えてくれて、それらは世界中で喧伝され、アロエースってヒトたちがいるらしいよ、それはこんなヒトらしいよ、っていうのが広まって、ああ、あなたもそうだったのね、とわかってもらえるようになった。
それはよかったのだが、なんで宇宙人が来るまで話を聞いてくれなかったんだろうか。
わたしたちはけっこう話をしているはずだ。二項対立はよくないのだが。二項どころか多項対立していて、あちらを立てればこちらが立たずなんてことにはしたくないのだが、実際のところそうなっていて、まあでも、わかっているヒトもいて、みたいな感じだったのだが。
アロエース星人がやってきたら、わたしたちは、宇宙人みたいなヒトね、という認識をされるようになった。じゃあその、スペクトラム性についてはどう思っているのか、と言われても、現生人類と同じ基準で話してくれるので、地球人の実態とかけ離れることはなかった。宇宙にはデミセクシャルもクワロマンティックもいた。そりゃあいるだろう。

わたしはアロエース星人がやっている動画のチャンネルを見ながらため息をつく。アロエース星人は地球人の技術をすべて吸収しているため、動画を作るのだって上手いのだ。わたしが同じことを話したら聞いてくれるのだろうか、少なくともあなたは聞いてくれるのだと、信じてわたしは話をしている。

ある日、アロエース星人が地球にやってきて、
「我々はアロエースだ」
と言ったおかげで地球におけるAスペクトラムに対する認知は深まった。

宇宙人が来なくってもわかったほうがよかったのだろうが、たぶん、そんな世界も、わたしたちのものとは違う世界も、どこかにあるはずだ。
いや、あるんだよ。

2025-05-01

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