Origin

 目にしたものは太陽だった。あるいは太陽を目にした瞬間に目が生成された。どちらでも構わないのだが、かれが太陽を見たことは紛れもない事実である。太陽が光っているので、手を伸ばしたかった。そのあたたかさに触れてみたかった。すると手が生成されて、太陽の方へ向かおうとするからだがないことに気がつく。そう思えばからだはそこにあった。かれは太陽を見る。太陽は笑っているようにも、怒っているようにも見えた。太陽はかれの伸ばした手を振り払って、どこかに歩いて行ってしまった。追いかける足が必要だ。足がつくられる間に、太陽はかれの視界から消えた。
最後に生成されたのは頭であった。瞳だけでは足りない。見るだけなら目があれば十分なのだが、かれは望んだ。かれも光りたいと思った。かれの見た圧倒的な眩しさになりたいと思った。そうしてかれの身体が生成された。作り上げられた身体が、かれの見たものとはまったく異なる、黒いものであったことを知るのは、かれが水辺を発見してからとなる。

かれはシュールレアリズム星に発生した。シュールレアリズム星には様々な姿形を持つ、様々な存在がおり、かれが太陽だと認識していたものも、その存在のうちのひとつ――タローマンであることを学んだ。タローマンは、シュールレアリズム星のみならず、宇宙を飛び回っているようだった。ようだった、というのは、かれにはタローマンの位置を大まかに把握することができたからである。何をしているのかはわからないし、何を考えているのかもわからない。ただ、ここではないどこかにいるというのは十分に理解された。タローマンそのものも、発生してから間もないものであったのだが、そのようなことはかれの知るところではない。かれにとって重要だったのは、かれが発生したとき、タローマンがいた、ということだけだ。
シュールレアリズム星はかれを歓迎することも拒絶することもなかった。存在はそこにあり、各々が好きなことをしていた。
好きなこと、というのが何なのか、かれは考えようとはしたけれども、うまくいかなかったので、近くにいた存在――雷人の蹴っていた石を蹴り返した。そうすると、雷人は面食らった顔をしていた。
かれは何をすることもなかった。周りの存在が、かれに何かを課することもなかった。シュールレアリズム星に義務はなく、混沌のみが存在した。その中にも名前はあった。名前によって世界は分節されており、その網の中に自らがいないことを見てとった。
あの時、見た、タローマンにも名前があったのだ。
かれは自らに名前を欲した。周りの存在は、みな思い思いの名を名乗っているようだった。どのようにして名前を決めたのかを、タローマン2号に尋ねてみたことがある。タローマン2号は、タローマンにそう呼ばれたからだと答えた。なら、自分もタローマンに名前をつけてもらえばいいのだろうか。
かれはタローマンを探した。タローマンは太陽系第三惑星をしばしば訪れており、その時は大きな湖で釣りをしていた。タローマンのサイズに見合う釣竿は存在しないので、橋やビルなどを用いて自作することとなっていた。
そのような大きな釣竿で釣れるほどの魚は、太陽系第三惑星上には泳いでいない。ゆえに、タローマンに収穫はなかったのだが、タローマンはそれをよしとしていた。
かれがタローマンのもとに辿り着いたのは、もう日が暮れる頃だった。かれがタローマンに出会うのは、かれが発生して以来のことであった。タローマンはかれを見ると、しかめ面をして、首を傾げて、釣竿を置いて、飛び立ってしまった。
仕方がないので、かれは釣りをすることにした。釣果は得られなかった。

タローマンに避けられているのだろうか? とかれは思う。かれが発生した時も、そうだった。タローマンはすぐにいなくなってしまう。
そのときかれに意思が生まれた。
極めてシュールレアリズム星人めいた意思が。
タローマンが自分を嫌っているのならば、自分もタローマンを嫌えばいい。
さいわいなことに、かれはタローマンの居場所をつかむことができる。
かれは釣竿を置いて、飛び立つことにした。

それからというもの、かれはタローマンの行く先々に現れては、邪魔をすることになる。タローマンが他の奇獣と戦っていれば、それを妨害し、タローマンが朝食を調理していれば、そのトレーをひっくり返し、タローマンがビルをつついていれば、そのビルごと放り投げる。
楽しいわけではなかったし、タローマンがかれに話しかけることはなかった。ただその妨害も妨害してきた。タローマン2号なんかは、どうしてそんなにタローマンにこだわるんだ、と言ってきたのだが、かれにその自覚はなかった。かれは思慮深い性格ではない。考える、という機能はあまり搭載されていない。自らの方向性を「タローマンの邪魔をするもの」として定めたから、そうしている、それだけのことで、なんなら、能動的にタローマンのことを嫌っているわけでもなかった。そもそもが、シュールレアリズム星の沼地が「太陽を欲した」から伸ばした手なのだ。意思性の塊のような他の存在とは異なるものであり、かれも十分にそれを理解していた。

かれはそのように在り、それに満足を抱くことも不満になることもなかった。

それも、太陽系第三惑星のことだったと記憶している。
タローマンは、奇獣「疾走する眼」と鬼ごっこをしていた。山間部を、ビル街を駆け回る途中で、いろいろなものが破壊されたりもするのだが、それはふたりにとって些事であった。
かれはいつも通り、その鬼ごっこを妨害しようとした。予想される通路を塞いだが、タローマンは見事に回避した。これでもまだ足りないのか、と次の手を考えていたところで、タローマンが車を踏み潰しそうになった。ここで足をとれば、タローマンも転ぶかもしれない。
かれは近くにあった電柱で、タローマンを引っ掛けようとした。タローマンがかれを見る。タローマンは電柱をひょいと掴んで、バトンのように持ってそのまま走り去った。
疾走する眼とリレーでもするつもりなのだろうか。
さて、どうしようかと思っているところに、足元から小さな声がする。
それは、タローマンに踏み潰されなかった車の中からのものだった。
かれは赤い車をつまみ上げて、手のひらの上に乗せる。
中に乗っている子供が、窓を開けて言う。
「ありがとう、タローマン!」
かれは子供を助けようとしたわけではない。タローマンの邪魔をしたかっただけだ。それに、かれは、タローマンではない。
それでも、子供にとっては、かれの存在が救いだった。
かれがどう答えるべきなのか迷っていると、子供が遠くを見て、近くを見て、
「あれ……タローマンはあっちにいるから……
そう、自分はタローマンではない。ようやく気づいてくれたのだろうか、と、かれが安堵したところに、
「ありがとう、ブラックタローマン!」
子供はかれに手を振り、かれは車を道路に戻した。車はかれの足元を進んでいく。
そのようにしてかれはブラックタローマンと呼ばれる存在となった。

2025-09-29

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