l’oracle
真実、彼は目撃していたのであった。
一七八九年、パリ。
女達が立ち上がったバスティーユ宮殿への行進の、人民の解放を訴えるのを宮殿の内から眺めた。
ルイ十六世の首が落とされるその瞬間を、執行人の視点で見ていた。群衆の熱狂の内に身をおいた。国民公会における、ロベスピエールの共和に対する強い意志でもってあらゆる行動を指揮することを。ダントンの雄弁を。人民の友たるマラーの悲劇を。サン=ジュストの壮麗たる演説でもって人心を動かすことを。人々の変心を。断頭台の前に並んだ行列を。ジャン=ジャック・ルソーの著書における自由への意志を。アナカルシス・クローツにおける世界的平等への志向。王党派の反乱。ヴァンデにおける血で血を洗う戦闘、シムールダンの高潔、ゴーヴァンの理想。悪辣なラントナックの気高き行為。あるときは一兵卒、あるときは貴族、あるときは平民。
ナポレオンの攻勢、失脚、ワーテルロー。
物価の高騰、商人の暴利。男達は家族を養うため犯罪に手を染め堕落する。女達は子供を守るため身を売ることを余儀なくされ、残された子供は街にひとり放り出されるのだ。
本で読んだ出来事は、眼前に広がる光景であり、他人から聞いた挿話は、身体を包み込む風景であった。彼の視界に現在と過去は区別されず、故に未来を垣間見ることを許された。
幾つか築かれたうちのひとつであるバリケード、眠ったままの町、パリ市民の忘却、集うは学生たちの結社のみ。そして首領たる彼は銃殺される。コラントの二階だ。壁際でもって、最後のひとりとなった彼は打ち倒される。
それら全てが彼にひとつの役割を、自明のものとして受け取らせる。
すなわち未来は流血によってのみ齎されると。
自らの死は平和の直接的な礎にはならないと。
それなしに真の共和政フランスは訪れないと。
これが、彼――アンジョルラスに与えられた啓示であった。
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