ひとは死ぬ直前に夢を見るという。
生まれてから今までの人生のすべてを一瞬にして回顧し、神に対して祈るための夢だ。
しかしながら、今現在が夢に見た場所と同じならば、夢と現に区別はなくて、感慨はなかった。同じ本を最初からめくっていって誤字を探すように。誤字があっても、大意は同じであるように。
敵意しかない銃口が無数、逃れられない人数ではないが、逃れる気などまったくなかった。この静けさからするに、下はもう制圧されたのだろう。
ここはかつて見た場所、床のしみさえも同じくする、それは約束された結末だった。
ならば、この現在は正しいのだろう。
ここまでの戦局はすべて、かつて見た通りだった。ラマルク将軍が蜂起の起因になったのも、真っ先に死ぬのがバオレルだったのも、最後に残るのが僕なのも。プルーヴェールを助けようとして叶わなかったし、ガブローシュも命を落とした。マリウスがやってきたことに安堵したど同時に当然だとも思った。
コンブフェールに打ち明けても変わらなかったから、摂理はそう流れているのだろう。後悔はしていない。彼は優しかった。
僕に関してはとうの昔からわかっていた結末だ、何も恐れることはない。
ただ仲間達が名誉を持って死ぬことが出来たかだけが気にかかった。逃げろと言ったのに、妻子あるものもいたし、恋人を持つものはもっと多かった。
それ以前に、彼らは皆仲間であった。
彼らの死が無碍にされないことだけを祈る。覚悟はできていたのだと願いたい。
躊躇うこと無く撃ってくれ、銃を下ろすこと無く、さあ。
不要な情けを見せようとする兵に向かって、僕は撃つよう促した。その時だった。
「Vive la République!」
明朗な声が背後から響いて、記憶の中のどこにもいない、グランテールがそこにいた。彼はいつになくしっかりと、もう一度祖国を賛美した。あの酔っぱらいは毅然とした足取りで、部屋を横切った。
これは僕の知っている未来ではなかった。
居ないはずの彼は僕の横に並んで立って、許してくれるか、と言った。許す以上に、何があるだろう。
なぜなら、自らの関わる以上の未来を、その時確信することが出来たから。頁に新しい文字が加わるのを読むことが出来たから。
もう死んでいるものだと思っていた。今までに気にも掛けたことはなかった。それでも彼は、ここにいるのだった。不満しかなかった相手に、どう言えば解らなかったから、僕は、
銃声。
君は僕の承諾を知るだろうか。そうしたつもりだったのだが、解らなくても構わない。
きみがここにいるおかげで、僕は未来を信じることができる。それだけだ。
それで、いい。
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