Mr. Blue Sky

 え、じゃあおれがこどものころの不思議なはなししていい?
あのときは絶対怒られるって思って言えなかったんだよね、ほら、家出したじゃん中学生のころ。
おれだって今はどうして家出したかなんか覚えてないけど、テスト結果隠してたら詰められたとかそんなところじゃなかったかな、ともかくすっごく晴れた日だった。それは覚えてる。
さくらの季節はもう終わってて、春で、空が青くて、なーんか、虫の居所が悪くって、ありったけのお金を持って――三〇〇〇円くらいだよな、母さんの目を盗んで、こっそり出かけたってわけ。
結局その日の夕方には帰ってきたしめちゃくちゃ怒られたけどさ、おれとしては大冒険だった。
おれももう親だしさ、父さんが怒るのも、まあ、わかるよ。今はね。でもあのころはわからなかった。いいだろそんなことは。実はさ、あの日、おれ完全に迷子になっちゃったんだよね。自力で帰ってきたと思ってるだろ? 家出したのに迷子までなったとか言ったら絶対今晩夕飯抜きだろって言えなかったんだよ。
そりゃそうだよな、おれ時刻表の見方とかわかってなかったし。とにかく高い切符買ってどっか行こうとしか思ってなかった。だからよくわかんない町で降りて駄菓子屋でお菓子買って公園で食ってさ、時計見たらもう三時なわけ。そこでようやく気付いたんだよねあれ帰り道どうだっけって。交番に行ったら帰れるかもしれないけど家に連絡されるし。
ベンチに座ってえっ無計画に出てきちゃった、これからどうすれば、って考えてたところに声をかけてくれたひとがいて。
よう、小僧、って、おれのこと知ってるみたいに、でもおれまったくそのひと見覚えなくって、どうしたんだろう、って思ったんだけど、悪いひとじゃなさそうみたいだったし。
ええと、確か、茶色いジャケット着てた。あとあの日の空みたいに真っ青なシャツ。それでかっこいいバイク乗ってた。
今となってみればちょっとレトロかな。でもそのときは必死で、あんまり服装とか気にしなかったな。
いや今のおれくらいの年のひとをおじさんって言うのもあれだけど、ガキってそんなもんじゃん。だからとりあえずおじさんって言うけど――
そのおじさん、カフェ連れてってくれて、クリームソーダおごってくれたんだよ。それでおれはほんと親父なにもわかってないんだよなみたいなはなしをして、まあ見知らぬおじさんだしいいかなって、そしたらなんかにこにこしててさ、あとたばこ出して店員さんに叱られてたな。
跳ねっ返りは嫌いじゃねえがたまには親孝行してやれよ、とか言ってた。
そんなすごい顔しないでよ。知らないおじさんについてっちゃだめだよな。わかってるって。
で、そのおじさん、えーっと、ほら実家の目の前にある大きな木のある交差点のところまでバイクで送ってってくれたんだよね。いつもは女しか乗せねえんだとかこぼしながら。
ちゃんとお礼は言おうとしたよ、したんだけどバイクから降りて振り向いたらいなくなってて、結局言いそびれちゃった。
でさびっくりしたのがその後で、父さん仕事のはなしぜんぜんしてくれなかったじゃん。最近はちょっとしてくれるけどさ。でもおれくらいの年のころ何してたかぜんぜん知らない。じゃなくって、去年の大掃除のとき、父さんの部屋入ったらフォトアルバムが机の上置いてあって、こっそり見ちゃったんだよね。そしたらおれと同じくらいの年の父さんが保養所? って言うのかなあれ? で遊んでる写真があって。なんかめちゃくちゃはしゃいでるし。それでさ、驚けよ、なんとその中にあのときのおじさんがいたんだ! すごくそっくりでさ、もしかしたらあれ父さんの友達だったのかなって。その時に言おうかなって思ったけどちょうど父さん宇宙に赴任中だったしさ。で今喋ったってわけ。
でもだとしたら不思議だよな、って、だってそのおじさん、まったく写真と一緒だったんだ、おれ中学生だったからきっと――あの写真からは一五年以上は経っていたはずだろ?
……ちょっと、泣かないでよ父さん、おれそんなまずいはなしした? 棚の奥におれの生まれ年のマッカランあるから取ってこいってなんだよいきなり。父さんふだんは飲まないでしょこんなの。
そっか。
……うん。わかった。じゃあ今度は、父さんのはなし、聞かせてよ。

2022-05-29

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