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サイクロプスによるプロフェッサーX殺害についてだが、と、キャプテン・アメリカは問う。
思い出せるのはいつも荒野だ。人間がいくらいようとも関係のないそれは荒野だった。エリックはそこに、ひとを救うために舞い降りたのだった。磁界王として。かつての友を引き連れて。それを最善だと信じて。かつての自分のようにしか見えないものが、破滅へと滑落していくのを見たくはなかったから。
そのつもりだったのに、いやだからこそ、フェニックスフォースをすべて自らのものにしたサイクロプスがダークフェニックスと化して、エリックはその前になすすべもなく吹き飛ばされた。
それで。
気がついたときにはすべてが終わっていた。
ひとが倒れている、と思った。それから、倒れているのが誰なのかはわかった。それから、誰がやったのかもわかった。その瞬間を知らない。想像することすらできない程度には知らない。知らないけれど、決定的に終わっていて、終わってしまっていた、その瞬間について、尋ねられていた。
キャプテン・アメリカが直々に聴取を行うなんて、珍しいこともあるものだ、と、エリックは思う。普通、このくらいのことには、もう少し下の人間をよこすものだろう。
だから、シールドの一角に設えられた取調室に彼がバインダーを持って現れたのに、少々驚きはした。比較的きちんとした部屋に通されもした。飲み物はコーヒーと紅茶から選べたのでコーヒーにした。このような待遇であるのも、こちらが特に彼らにとっての悪事を働いたわけではないから当然ではあるのだが。
ガラスのカップとソーサー、シュガーは開けずに、置いておく。
キャップが入室して、着席し、バインダーをめくり、ページを探す。片方のページには、全ては見えないが、あの事件の証拠写真と思しきものがいくつか貼ってあった。
今回は聴取に応じていただき感謝する、と、挨拶もそこそこにして、彼は本題に切り込んだ。
「サイクロプスによるプロフェッサーX殺害についてだが」
容疑ではない、断定だ。彼だってその場にいたのだから。多くの目撃者のもと堂々と行われたそれは殺人だった。昨今起こった中では最悪の部類に属するものだろう。
サイクロプスによるプロフェッサーX殺害。
文字列としては、非常に理解しやすい。どちらの名詞も馴染みのあるもので、動詞も日常語彙の範疇で、要するに、簡単な文章である。
しかしながら、エリックはその文章に関する想像を全く働かせることができなかった。文字列と事実以上の意味合いを見て取ることができなかった。
だから、その後に尋ねられた二、三のことがらについて、十分に回答できたかは、本人にとって定かではない。あなたはフェニックスの陣営と接触していたようだが、何か新しい情報はあるか、であったり、そういったことだ。データベースから情報を拾い集めて吐き出すようなものでしかなかった。意識を働かせるよりも前に答えてはいた。
そもそも、もう終わったことなのだ。
これ以上、何を言うことがあるのだろうか。
責任を取るべきひとはもうどこにもいないのだ。存在はするけれども、存在するだけであって、あの彼はきっともう戻ってはこないのだ。
家に戻れば待っているだろう誰かを思う。あの誰かは、サイクロプスの形をしていて、限りなく、別の人間だけれども、捨てることはどうしてもできなかった。
最後にひとつ、と、キャプテン・アメリカは言う。
「スコット・サマーズ――彼の居場所を知っているなんてことはないだろうか」
「知ってるなら、こっちが聞きたいくらいだ」
そうか、以上で聴取を終了する。キャプテン・アメリカはバインダーを閉じ、部屋を立ち去る。エリックの手元に置かれたコーヒーは、一口も飲まれることなく置き去られている。
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