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スコット・サマーズは家を出る。今日のエリックは外出していた。どこに行くかは知らない。極力外には出ないようにとは言われていたけれども、日がな一日本や雑誌ばかり読んでいても、飽きてしまう。
『プロフェッサーの友人』は、生活に必要なものなら与えてくれるし、よくしてくれる。なんせ、今、普通に物を見ることができる。あれがあれば、今までもこんなに苦労をすることはなかったのに。
しかしあれがほんとうにプロフェッサーの友人である保証はないし、いっこうにほんもののプロフェッサーが現れる様子はない。最初に、お前のようなミュータントはたくさんいる、と、言われたけれども、他のミュータントに出会える気配もない。
なにより最初怒鳴られたのがちょっとだけ気に食わない。
階段を降りる。外は晴れていた。街の音がそこかしこから聞こえる。足音、風のビルにぶつかる音、人々の会話、それから。それから。スコットはこのような街に来たのははじめてだった。彼の記憶の中では。もっと穏やかで、緑にあふれた、町にいたものだった。それからあとは、暗闇にいた。
そのどちらでもないこの街をスコットは歩く。バイザーのおかげで眩しくもなかった。金も多少拝借してきた。緑の棚の、上から二段目に入っている。そんな大金じゃない。キャンディショップで、カラフルなキャンディを袋詰めにできるくらいだ。店に入ると、物珍しいものを見る目で見られた。スコットは百グラム分のキャンディを透明な袋に詰めて、持ち帰る。
多分エリックも喜ぶだろう。真っ赤なストロベリーと、真っ赤なラズベリーと、真っ赤なクランベリー味のキャンディだ。
スコットの家に帰る道中、少年たちに声を掛けられた。
少年たちは、みな人間の顔がプリントされた。おそろいのTシャツを着ていて、おそろいのサングラスを掛けていた。
彼らのうちのひとりが突然声を掛けてきた。
「お前も仲間か?」
「え?」
「だって、これだろ、これ」
そう言うと少年は着ているTシャツの顔を指差した。その顔は、バイザーを書けた男の姿をしていた。確かに今の自分によく似ているように見えた。
「でも、サングラスを掛けた人なんて、他にいくらでもいるんじゃないか」
しかし、似ているだけで、別人だ。
「違うのか?」
スコットはその顔と自分が同じものだと扱われることに対して不快感を覚えた。どう見たって、これは、自分ではないのだ。
立ち去ろうとしたとき、少年に肩を掴まれて、振り払った手でバランスを崩し、転んでしまった。
目を閉じなければ、と、思うのが少しだけ遅かった。
再び視界を取り返したときには、目の前の壁に穴が空いていた。怒られるのではないか、と、とっさに身をすくめる。
だけれども、予想に反して殴られることも蹴られることもなかった。
おいこれ『本物』なんじゃねえか? さっさと逃げるぞ! 少年たちは走って逃げていった。スコットはそれを呆然と眺めていた。
帰った後、スコットはエリックに今日の出来事について話した。スコットの外出が咎められることはなかった。エリックはその少年たちの特徴や、どこで出会ったかを尋ねた後、こう言った。
「わかった、この街を出よう」
「いつ」
「明日」
「どこへ?」
エリックは答えなかったし、その晩帰ってくることもなかった。朝には荷支度が完成していた。ふたりは街を出た。
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